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試合終了③

「さて、じゃあ帰るか」


 持ってきた服に着替えた俺達は先輩達と別れ、四人で最寄駅へと向かっていた。


 すこぶる天気の良い日差し。

 まだ2時半頃だからか、太陽は天高く辺りを照らし、差してくる光が川に反射してキラキラと光っている。

 勝利に相応しい光景だ。


「ねぇせっかくだし、どこかで祝勝会やろうよ!」


 桜川が思い付いたように提案した。


「このまま帰るのももったいなくない?」


「確かにせっかく遠出してるんだもんね」


「俺は構わないよ」


「…………私も」


「決まり!」


 桜川が意気揚々にパチンと指を鳴らす。

 この中の誰よりも行動的だよなこいつ。

 常に明るいし、こう見えて意外と気が回ったりもする。

 ストーキングされてた時も飯時は避けていたし、ハーフタイムの時にも飲み物を持ってきてくれていたのは素直にありがたかった。

 きっとそのうちサッカー部でもモテ始めるに違いない。

 健康的体育会系女子って需要高いよな。


「なに高坂っち、そんなジロジロ見て。照れるじゃん」


「いや、気が回る奴だなって」


「ちょ……なに急に、本当に照れるじゃん!」


 そう思ってるのはきっと俺だけじゃないさ。

 でもこれ以上言うと、またサッカー部に入れ入れ言い始めるので調子に乗らせないためにも言わんでおこ。



 俺達は駅前にあるファミリーレストランに入った。

 安くイタリアンを食べられる有名なチェーン店だ。

 席は4人掛けのテーブル席。


(はっ……! 俺はどこに座るのが正解なんだ)


 俺以外の3人は女の子のわけで、誰かしらの隣に座ることになるのは間違いない。

 一番最初に座るのは男して違う気がするし、かといって中途半端なところで席につくのも相手を選んでいると思われる。

 いや、分かってるよ。

 そんなもん誰も気にしてねーわって俺も分かってる。

 でも汗かいた後の男子が隣にいると嫌じゃない?

 俺だって少しはそういう部分も気にするし、女子からしれっと距離取られたりしたら普通に傷つく。


 それを踏まえるとやっぱり桜川と前橋が選択肢から消えて、梨音しかないっぽいな。

 こいつだったら今さら気にする必要もないし。

 向こうも気にせんだろ。


「レディファースト。先に座れよ」


「じゃあ私窓側〜!」


「…………反対側」


 …………桜川と前橋が分かれやがった。

 思わず頭を抱えたくなる。


「梨音っち隣来なよ!」


「うん」


 となると必然的に俺は……前橋の隣か。


「隣失礼」


「…………うん」


 すすっと前橋が窓際に詰める。

 というか待ってくれ、そんなに窓際にべったり張り付くほど詰めなくてもいいじゃん。

 そんな露骨に避けられると泣くよ? 俺。


「……ごめんな前橋、汗臭い俺が隣で」


「ちっ、ちがっ!? 私……! 私が汗臭いからあまり近寄らないように……!」


 あ、そっち? 建前とかじゃないよね?

 良かった俺のガラスのハートにはヒビが入っただけだった。


「え〜汗臭くなんか全然ないよ。むしろ汗かいてる女の子の方がエロくて男子に人気あったりするんだよ! ね、高坂っち!」


「俺に振るなよ。とはいえ桜川の理論には、男子代表として同意せざるを得ない。つまり今の前橋は普段よりむしろエロいということに」


「修斗〜」


「はいすいませんでした」


「〜〜〜!!」


 前橋は顔を赤くさせて俯いてしまった。

 あまりイジメると可哀想か。

 梨音にもカチキレられそうだし。


「でも私も高坂っちとサッカーしてみたいなぁ」


「やってあげなよ修斗」


「サッカーは厳しいだろ」


「じゃあパス交換でもいいから」


「今してるじゃん」


「会話のパス交換じゃないよ!」


 なんだ違うのか。

 俺はてっきりコミュニケーションという名のパス、もといキャッチボールかと思ったのに。

 口でもボールでもどっちでも得意だぜ俺は。


「じゃあ今度やってやるから、とりあえず注文しようぜ」


「やった! 約束だよ!」


「オーケー約束。じゃあ俺は──────」


 桜川と軽くボールを蹴る約束をし、メニューからそれぞれパスタだったりピザだったりを選び、ドリンクバーをつけてしばらくダベって過ごした。

 前橋と桜川、二人ともクラスは違うけどサッカーという共通点で知り合い、仲良くなれた。

 俺が人生において積み上げてきたものは、意味もなく崩れ去っていったわけではなく、ちゃんと高坂修斗を形成しているものとして残っている。

 サッカーを消して考えるんじゃない、その上に積み重ねていけばいいんだ。


 俺は一人で納得しながら運ばれてくる料理に舌鼓を打った。

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