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試合終了①

 ここまでお膳立てされてやらないわけにはいかない。

 それに、この人達となら生徒会の活動も楽しくやれそうだ。


「高坂、本当に生徒会に入ってくれるの?」


「ああ。前橋も会計やるんだろ? サッカー談義の相手もいることだし、楽しそうじゃんか」


「…………うん、私も楽しみ」


 そう言って笑う前橋に、少しだけどドキッとした。


「梨音も入るだろ?」


「ま、まぁ神奈月先輩にも誘われてるし、修斗やきいもいるんだったら確かに楽しそうだよね。私ももちろん入るよ」


 梨音ならそう言ってくれると思った。


「え? え? 3人とも生徒会に入るの? ずるいずるい! 仲良し3人組じゃん! じゃあ私も!」


「お前はサッカー部のマネージャーだろうが……」


「兼用するよ! 高坂っちと同じで!」


「俺はサッカー部に入った覚えはねぇよ!」


「あれ? そうだっけ?」


 この人、相変わらず隙あれば俺をサッカー部に入れさせようとしてくるんですけど。

 そのうち俺がサッカー部に入ったって噂を流して外堀から埋めてきそうで怖いんですけど。


「そもそも生徒会の席がもう無いから美月は難しいかも……」


「む〜……! いいもーん。私はサッカーに生きるもーん」


「桜川、も……サッカーやってたの?」


 前橋が聞いた。

 そう言えばこの二人は今日が初対面だったのか。


「美月でいいよ! 前橋っちほど上手くはないけど中学までクラブチームでね」


「そうなの……? チームは……?」


「FC鴨川ドルフィンっていうところ。弱小だけどね〜」


 あはは、と桜川が苦笑いをした。


「知ってる……! 戦ったことはないけど」


「戦ったことないんかーい! ちなみに前橋っちはどこにいたの?」


 ああ、そういえば俺も前橋がどこにいたのかは聞いたことなかったな。


「……FC横浜レグノス」


「え!?」


「え!?」


「何で修斗も驚いてるの?」


 いやそりゃ梨音、FC横浜レグノスって言えば……。


「男子と一緒に混ざってたってこと!?」


「う……うん」


 FC横浜レグノスは東京Vと同じくJ1におり、ユースの育成にも力を入れているところだ。

 女子チームは無かったはずだから、試合をやる時は男子の中に混ざってやるしかなかったはずだ。


「FC横浜レグノスは、クラブチームの中でもかなり強豪だぞ。俺もリーグ戦や大会で戦ったことあるし。何で女子サッカーチームじゃなかったんだ?」


「お兄ちゃんが…………そこのチームにいたから」


「お兄ちゃん……? あっ!!」


 今度はどうした桜川。


「もしかして前橋っちのお兄ちゃんって、サッカー部キャプテンの前橋(ひじり)先輩!?」


「……うん」


 部活紹介の時に前に立って話してた人か……。

 あの人も元々FC横浜レグノスにいて、兄がいるクラブチームに妹も一緒に入ったってわけか。

 確かに親からしたら兄妹一緒のチームにいた方が安心するよな。


「どうりで足元の技術レベルが高いわけだ」


「……試合にはほとんどBチームでしか出られなかったけど……」


「前橋先輩も凄い上手いし、兄妹揃ってサッカー好きなんだね!」


「お兄さんはユースチームには行かなかったの?」


「お兄ちゃんは……ユースには上がれなかったみたい。選考外だって」


「そう……なんだ」


「俺と一緒だな」


 クラブから戦力外通告された時の残酷さは俺もよく知っている。

 目の前が歪んでクラッとするんだよな。


「……高坂は怪我のせいじゃん」


「だといいんだけどな」


 もし怪我をしていなければ、俺は提携する高校に入学して今もヴァリアブルでサッカーをしていたのか。

 そうなっていれば桜川や前橋と出会うことはなく、ここで今こうしてフットサルをやっていたこともなかった。


 それはそれでさびしいことでもある。

 怪我という分岐点によって俺の人生は大きく狂ってしまったのかもしれないが、そこから先の人生が全て下降していくかというと、そういうわけでもない。


 普通の高校に通っているからこそ、それぞれの楽しむ人生がある。

 これから先も俺は、サッカー以外に夢中になれる何かを探していくことができるのだろうか。


「どうしたの? 修斗」


「怪我…………痛む?」


「私、氷取ってこようか」


「違う違う、ちょっと考え事してただけだから」


 少なくとも今ここに3人、俺と仲良くしてくれている人達がいる。

 過去を見るのではなく、これからを大切にしていきたい。

 ふと、そう感じた。

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