後半戦②
ゆっくりとボールを動かしながら前へと進めていく。
山田はやはり足を伸ばしてくることはなく、タイミングを図るようにして俺との距離を適切に保ちながら後ろに下がっていた。
「そのまま下がるだけじゃゴールまで辿りついちゃうぜ」
「その時は数で囲むだけだ」
ハーフラインを越え、相手の陣地まで押し込めたところで前線の3人が動き始めた。
お互いのポジションがバラバラになるように、掻き乱すように動き始める。
それでも相手は自分のマークが外れないように必死に付いていっていた。
俺は足裏を使ってボールを細かく動かしながら山田を翻弄した。
「くっ……俺は抜かれさえしなければ……!」
「高坂君!」
神奈月先輩が左から右へ大きく突っ切るようにして、堂大寺会長を引き剥がしていた。
俺はそちらへパスを出す。
「させるか!」
と見せかけ、山田がパスコースを切るように足を伸ばした方向とは逆へノールックのループパス。
ゴール左手前に抜けていた新波先輩の足元へちょうど収まる位置にパスが通った。
「わ! 本当に来た」
上手くボールを止めることができれば後は撃つだけ、という状態だったが、新波先輩はボールをトラップすることができず、ボールはゴールラインを割って外へ出てしまった。
「あ〜ごめんなさ〜い!」
「どんまいニーナ! 今のは惜しかったよ! さぁ守備に戻ろう!」
すぐに3人が守備に戻り、俺を含めた4人でフィールドの自陣を守る。
どうやら攻撃は上手くいきそうだ。
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『もう一つの案ですが、俺と神奈月先輩の位置を入れ替えましょう』
『ほう、その真意は?』
『まず敵の戦術の崩壊、俺と前橋を封じるマークを崩します。向こうは俺達にボールを出させさえしなければ勝てますから』
『それはごもっともだね。現に、さっきは何も出来なかった』
『なので、俺はボールを受ける側から供給する側へと変わります。そうすれば、俺はゆっくりでもドリブルで持って上がれますから、恐らく向こうは山田が対応することになる』
『…………そうすると私には別のひとがつく』
『その通り。山田以外なら前橋が動き出しで負けるわけがない』
それほどでも、と前橋が満更でもない顔をした。
事実だからな。
『だけどキイにボールが渡ったとしても、キイはドリブラーじゃないから相手を抜けるかは厳しいんじゃないかな? それに、取られたらカウンターで1発だよ?』
確かに前橋はサッカーの基礎的な部分のレベルは高いが、ドリブルといった個人技はあまり得意ではなさそうだ。
それに俺が守備を走ってできない以上、カウンターを食らえば実質大鳥先輩だけになってしまう。
それについては異論のしようがないな。
『なので、3人には俺がボールを持ってハーフラインを越える、もしくは山田を抜いた際には敵陣で動き回って欲しいんです』
『フリーになってボールを受ければいいんだね?』
『そうです』
『でも私、その動き出しっていうのが良く分からないんですよ〜』
新波先輩が不安そうに声を挙げた。
未経験者の人ではもちろんそう感じるのが当たり前だと思う。なので。
『一人がパスを受けれると思ったら俺を呼んで下さい。そしてそれを聞いた他の二人はゴール前へと向かってください。もし可能だった場合、俺がそのどちらかへパスを出します』
『一人を囮にして二人がゴールを狙うということかい?』
『簡単に言うとそうなりますね』
『理論上は確かに簡単そうに聞こえるが…………高坂、お前がパスミスをしてカットされたり、山田に取られたら終わりじゃないか?』
大鳥先輩が不安そうに聞いた。
『いえ、その心配はいりません』
『なぜ?』
『俺は絶対にパスミスはしませんし、山田にも取られないからです』
その不安を拭うように、ハッキリと俺は答えた。
疑う事なく、ブレることなく、俺はそう断言する。
大鳥先輩が驚いたような表情を見せたが、すぐに諦めたように笑った。
『とんでもない奴だな……』
『…………私は信じます。信じて走ります』
『そうだね。あの高坂修斗がこう言ってるんだ。私達はそれを信じて戦うしかない』
『言われた通りに動きます〜』
前橋も、神奈月先輩も、新波先輩もすぐに賛同してくれた。
自分達に負担が掛かる事を承知で、あっさりとだ。
俺が走れさえすればと久々に強く感じた。
勝ちたいな、この試合。
『あと一つ、最後は外してもいいのでなるべくボールを外に出す形で終えてください。守備に戻る時間を確保するためにも』
『了解した!』
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