会計担当①
「生徒会、入るの?」
帰り道、梨音が聞いてきた。
どうやら昼休みに俺が生徒会長と話しているのを聞いていたみたいだ。
そりゃあんな風に堂々と教室に入ってくれば目に付くよな。
「他に面白そうな部活もないしな。あんまり雑務ばっかりだと面倒くさいけど、どんなことをしているのかぐらいは見てみようとは思ってる」
「ふーん。それにしても、桜川さんの次は生徒会長って、修斗は色んな人から人気があるね」
人気…………なのか?
桜川は俺をサッカー部に入れたかっただけだし、神奈月先輩に至っては俺を生徒会に入れたがる理由は意味分からんからね。
他人の頭を水道に突っ込んでたら見染められるってなに?
「神奈月先輩がおかしいと思う方に一票」
「それはさすがに失礼じゃない……? でも他の人から頼りにされるのって嬉しいよね」
「まぁなぁー。というか俺なんかより、梨音は部活入らないのかよ。俺に合わせる必要なんかないんだぜ?」
「別に合わせてるわけじゃないんだけど……」
そもそも梨音は運動系ではなく文化系の人間だ。
中学の頃は美術部に入っていたはず。
なので絵は普通に上手い。
この学校にも美術部はあるはずなので、入学当初に見たそうにしてた部活があったはずだけど、それはたぶん美術部のことだろう。
「美術部は? 入りたいんじゃないのか?」
「え? 全然」
「え?」
あれ。
美術部じゃないのか。
じゃあ入りたそうにしてたのはどこだ?
「俺はてっきり中学と同じ美術部かと」
「うーん、高校の美術部ってなると私の目指してる方向とはかなり離れるから……」
「目指してる方向?」
「あっ、いや、別に…………」
なんだよ、めっちゃ渋るじゃん。
あれか、俺の怪我したことを言いたくないやつと同じか。
ま、誰しも話したくないことの一つや二つあるからな。
わざわざ無理に話を聞く必要もないか。
「今度生徒会室に行ってどんなことやるのか聞いてくるよ。その内容次第って感じだな。神奈月先輩はまた来るとは言ってたけど」
「生徒会かぁ……修斗が入るなら私も入ろうかなぁ……」
梨音がボソリと呟くように言った。
何気ない一言のように聞こえたけど、俺は聞き逃さなかった。
「マジ? いいじゃん俺一人で入るよりか梨音がいてくれた方が心強いし」
「え、そ、そう?」
「おう。やっぱ高校とか部活とかでもそうだけど、出来上がったコミュニティの中に入ろうとすると一人じゃ心細いよな。誰か顔見知りがいた方が気持ちは楽だし、それが梨音ならなおさらだな」
「そ、そっか…………」
嬉しそうに笑う梨音。
嬉しいのは俺の方なんですけどね。
でも問題は生徒会に梨音が入れる枠が空いてるかどうかだ。
生徒会長は神奈月先輩だとして、副会長は確か入学式の日に一緒にいた2年の大鳥先輩だよな。
他にある職ってなんだ?
書記と…………会計?
その二つは空いてたりすんのかな。
明日、生徒会室に行くついでに聞いてみるか。
次の日の放課後、俺は生徒会室の前まで来ていた。
用件はもちろん昨日の件。
レスポンスという名の寄せは早い方なのさ。
「すいません」
生徒会室の扉をノックしたが、中からの反応は無かった。
「すいませーん」
再びノックし、少し扉の前で待ってみるも変わらず反応は無し。
「……失礼しますよ」
俺はドアノブに手を掛けて扉を開けると、鍵はかかっておらずすんなりと開いた。
中の部屋には生徒会長が座る大きめの席と机、その手前に二人掛けのソファが二つ、間に机があった。
そして誰もいない。
「まだ来てないのか……? でもそんなに早く来たわけでもないしな」
少し時間調整という感じで新之助やニノとダベっていたから、6限が終わって既に1時間は経ってるぞ。
(出直した方がいいか……?)
俺が部屋から戻ろうとした時、生徒会室の左側に扉があるのに気が付いた。
中から少し物音がしている。
もしかしてここにいるんじゃないか?
「…………会計専用」
ドアのところにそんな表札が貼ってあった。
つまりここは生徒会の会計をやる人専用の部屋ってことか?
個室が設けられてるとか、一番待遇良いじゃん。
俺は少し聞き耳を立てて中の様子を伺った。
やはり中でカチャカチャと音がするのが聞こえた。
誰かいるらしい。
俺は思い切ってノックした。
「すいませーん」
ピタリと中の音が止まった。
出てくるかなと思って待っていたが、一向に誰かが出てくる様子はなかった。
(え? 居留守使われてる?)
こんなことあるの? 学校の一室で居留守使われるとか。
自宅じゃないんだから。
俺はセールスマンか何かか?
「あのー」
「………………なに?」
少し間を置いてやっと返事が返ってきた。
良かった、俺はセールスマンじゃ無かったみたいだ。
にしても中にいるのは女の子か。
雰囲気から言って神奈月先輩ではなさそうだけど。
「生徒会に用事があって来たんですけど、神奈月先輩はいませんか?」
「………………今はいない」
「そ、そうですか」
なんというか凄いそっけない。
LINEとかでやり取りしても二行目まで文章いかなそうなタイプ。
いや、別にそれが悪いとか言ってるわけじゃないんだ。
俺もそのタイプだから馬が合うなって。
「いつ頃帰ってくるか分かります?」
「…………はぁ」
た、ため息つかれたんだけど!!
え!? 俺そんなにウザかったかな!?
「……今日は他校に行ってるからいつ帰ってくるか分からない」
「あ、そ、そうですか……。ありがとうございます」
生徒会長は他校にも出かけたりするのか……。
大変だな……。
「…………もういい?」
「あ、はい。すいません」
間が悪かったのかな。
何か作業してたみたいだし、これ以上邪魔しちゃ悪いよな。
「もし帰ってきたら、高坂修斗が用事があるって伝えといてもらえると助かります」
「こっ、高坂修斗!?」
突然、会計専用の部屋の扉が勢いよく開いた。
俺はめちゃくちゃビックリしつつも、中から出てきた人を見てさらに驚いた。
サラサラと流れるような綺麗な長い髪に、吸い込まれそうになるほどの大きな瞳。
小柄で制服が少し崩れている、というか制服に着させられている感が強い彼女は、梨音や神奈月先輩とはカテゴリは異なるだろうが間違いなく美少女と呼ばれる分類だろう。
なんというか…………猫とかウサギに近いっぽい小動物系?
「ほ……本物……!?」
「え……? ほ、本物の高坂修斗ですけど……?」
むしろ偽物の高坂修斗とかいるの……?




