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生徒会長②

 昼休み、新之助とニノとご飯を食べていると、思いがけない人物が教室に来訪してきた。


「高坂修斗はいるかい?」


 俺のことをフルネームで呼んだのは生徒会長の神奈月未来先輩だった。

 以前、俺を生徒会に誘いに来た時だから入学式以来か。

 相変わらず自信に満ち溢れた佇まいをしてらっしゃる。


「ここにいますよ」


「ああ、見つけた」


 神奈月先輩がこちらに近付いてきた。


「サガー君、この人誰?」


「生徒会長様だよ。入学式で演説してたろ」


「そうだったかなぁ?」


 俺も最初はニノと一緒で誰か分からなかったから気持ちは分かるぞ。

 むしろ2週間前に会ったきりだから一瞬俺も忘れてたぐらいだ。


「食事中に申し訳ない」


「お久しぶりですね。今日はまだ怒られるようなことはしてませんよ」


「だから何で怒られること前提? 相変わらず面白いね君は。以前に私が言ったことは覚えてるかな?」


 以前ということは恐らく、生徒会に入らないかと誘われたことだろう。

 あれから一切音沙汰無かったから、知らない内に無かったことになってると思ってたよ。


「生徒会勧誘の件ですよね」


「そう! 正式に生徒会の庶務として立候補して欲しいんだ。2週間後には生徒会長選挙があるからね」


「俺が立候補したからといっても通るとは限らなくないですか?」


「大丈夫さ。生徒会なんて基本みんな興味ないからね。しかも庶務なんて人気ない役職に立候補するのなんて君ぐらいだよ」


 ちょっと。

 入ってくれと頼んでるのに人気ないとか言うな。

 入る気無くすだろ。


「たとえ、もし他に立候補者がいたとしても生徒会長の私が推薦していることを公表すれば問題ない。結局は生徒会長の一存で決まるのさ」


「横からすいません。一つ疑問に思ったんですけど、生徒会長も今回選挙で決まるんですよね?」


 ニノが聞いた。


「もちろん」


「そしたら生徒会長も次また生徒会長になれるとは限らなくないですか? 他に立候補者とかいたら」


 確かに。

 さも当然のように話してるけど、神奈月先輩だって今回また当選するとは限らないじゃないか。

 もし神奈月先輩が落ちて、俺だけ公募で当選したらどうすんだ。


「あははは。おかしなことを言うね君は。だって私だよ? 当選するに決まってるじゃないか」


 いやおかしなこと言ってんのアンタだよ!

 どんだけ自信あるんだ!


「え? 僕変なこと言った……?」


「いや、ニノは間違ってない」


「ほら、私って見た目ももちろんだけど性格も品行方正を絵に書いたような人物だろ?」


「見た目はともかく品行方正は知らないです」


「さすがに1年、2年と生徒会長をやって来ているから、他のクラスからの私に対する印象は生徒会長以外ないと思うよ。そうすると必然的にみんな私に票を入れると思うんだ」


「え!? 1年の時から生徒会長やってたんですか!?」


「やってたよー。私の青春は生徒会ありきだからね」


 1年生から生徒会長ってなれるもんなの?

 でも立候補して普通に当選すればなれるか。

 この人どんだけカリスマ性持ってんだよ。

 それとも他に立候補者がいなかったとかいうオチ?


「噂によると高坂君はサッカー部の勧誘も断ったらしいじゃないか。すると部活には入らないってことだろう? じゃあもう生徒会加入で決まりだね!」


「そんな噂になるほどですか……?」


「なってたよー。なんでも通い妻がいたとかなんとか」


 遠くの方で梨音がせてる声が聞こえた。

 何してんだアイツ。


「そんなんじゃないですよ。サッカー部を全国に連れて行きたいというマネージャーのピュアな心意気です」


「ここのサッカー部はそこそこ強豪だったと思うけど、勧誘されるほど高坂君はサッカーが得意なのかい?」


「あ、こいつスゲー奴らしいですよ。元々日本代表にも選ばれてたらしいです」


「へぇそりゃ凄い! ある意味私の目に狂いは無かったみたいだね! でもそれならどうしてサッカー部に入らなかったんだい?」


「それは…………」


 理由を話すのに少し渋ったが、桜川と梨音の一件もあり、俺のくだらないプライドで理由を隠すのはもうやめにした。

 他の人からすれば怪我でやめることになったからといって、大して気にしたりはしないものだ。

 そうなんだ、ぐらいのリアクションでほとんどは終わる。


「怪我でサッカーが出来なくなったんですよ。だからサッカー部には入らない、というか入れないんです」


「そっか…………それは辛い質問をしてしまったね」


「や、でも気にしないでください。今では軽く走れますし、この前ボールもそれなりに蹴れるって分かったんで」


「なるほど…………高坂君自身はまだサッカーをしたいと思ってるかい?」


「はい」


 即答だった。

 前までだったら強がって〝そんなことない〟とか答えていたかもしれないが、今では心の底からサッカーがしたいと思えている。


「うん、分かった。ちょっと思い付いたことがあるから今日はこれで失礼するね。生徒会加入の件、また来る時までに考えておいてね。私は意地でも君を引き入れるつもりだけど」


「はは……分かりました」


 そう言って神奈月先輩は教室から出て行った。

 思い付いたことってなんだろうな。

 いろいろと不思議な先輩だわ。


「ねぇコーサカ君」


「なんだよニノ」


「コーサカ君がサッカー部に入らない理由『ボールを蹴ったら足が爆発する』じゃなかったんだね」


「は?」


 何言ってんだこいつ…………あー、前にそういやそんな賭けしてたなこいつら。

 最終的にその説に落ち着いたんだったか。


「僕は嘘をつかれたのか」


「そりゃ嘘に決まってんだろ」


「修斗はニノの純粋な心を弄んだな。やっちゃいけねーことだ」


「黙れ元坊主」


「ひどくね」


「悲し過ぎる。この悲しみは購買のプリンでしか癒せない気がする。ある意味僕の答えも合ってたし」


「…………はぁ。分かったよ奢ってやる。確かに理由を秘密にするようなアレでも無かったしな」


「やった!」


 プリン一つで大喜びとは、安過ぎるぞニノ。

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