紅白戦①
俺は特に隠されていなかったのでもう一つのホワイトボードを確認した。
そこには俺達と同じようにマグネットがフォーメーションの形で配置され、名字が横に書かれていた。それを桜川に確認して名前をそれぞれ教えてもらった。
GK 落貫 光太郎
CB 藤吉 英俊
CB 坂下 航大
SB 木葉 遥
SB 近江 親吉
MF 花咲 薫
MF 辻 恭弥
MF 岡本 拓真
MF 恵比寿 厳勝
MF 中瀬 快斗
FW 夜野 悠真
フォーメーションは俺が慣れ親しんでいたヴァリアブルと同じ形の4ー5ー1。
ボランチに2枚置いてワントップにし、中盤からの厚みでショートカウンターを得意としている形。
瑞都高校は去年から変わらずこのフォーメーションを得意な形としていることは知っていた。
ヴァリアブルではワントップの優夜の圧倒的なボールキープ力によって、前線に飛んできたボールも上手く収めることで攻撃の起点となっていた。
去年の瑞都高校においても狩野隼人がワントップとして他を寄せ付けないエースとして輝いていたはずだ。
新しくワントップに付いている夜野にはこれら二人に対抗できる力があるのか。
しばらくボールを触って基礎練を済ませたところでコーチが短く笛を吹いた。
「両者準備へ」
コーチが審判を務める中、俺達は互いに別色のビブスを着てコート内へと入った。
向こうが赤、こちらが緑色だ。
「先行は新入部員組からとする。それじゃあキックオフだ」
審判の笛が吹かれたところで安達がボールに触れて俺が後方へとボールを戻した。
新入部員vsレギュラーチームの紅白戦の火蓋が切って落とされた。
レギュラーチームは前線からハイプレスを仕掛けてきた。
最終ラインまで戻されたボールを夜野が追いかけていく。
ポジションが決まったところで俺達は簡単に情報共有を行ない、レギュラーチームの動きは恐らく前線からのハイプレスで来るだろうと事前に話し合っていた。
そのおかげか最終ラインの守備陣が慌てることはなく、落ち着いてパスを回して相手のプレスをかわしていた。
この辺りの落ち着きはさすがジュニアユース上がりである。フィールドプレーヤー唯一の中学出身である藤井も問題はなさそうだ。
相手は世代交代をしたとはいえ日々共に練習し、お互いを知り尽くしている完成されたチームだ。
大して俺達はお互いのことすら知らない奴が多く、コンビネーションなどと呼べるものに期待はできず、圧倒的に俺達が不利な状況での紅白戦だ。
それでもコーチや監督が紅白戦を開いた意図はなんなのか。
メインどころはやはり品定めにあるだろう。
そしてそれは俺達新入部員側だけに留まらず、レギュラー組すらも対象となっているはずだ。
新生瑞都高校サッカー部として、新たにレギュラーとして部を牽引していくメンバーをこの紅白戦で見極めようというのだ。
それならば俺がやることは一つだろ。
(ただ試合に勝つだけではなく、俺自身の価値を見せつけること)
ボールが火ノ川空に渡ったところで、すぐさま利空が受けに降りてくる。
マークをつかれながらもボールを受け、ワンタッチで空へと戻す。
マークは離れて空のドリブル先を塞いだが、利空がライン際に移動したところへ空がパス。さらにワンツーで抜け出す。
「うおおお!?」
そこから始まったのは右サイドラインギリギリで双子によるツータッチ以内での連続パス交換による前進。
シンプルに速いパス交換というのもあるが、そのほとんどがノールックに近く、視線誘導によるフェイントも織り交ぜられていた。
レギュラーチームが新たに人数を掛けて寄せに入ったころにはハーフラインまで到達していた。
これが技術では手に入れられない世代最高のコンビネーションか。勉強になるな。
「へい!」
右サイドの縦の裏を抜けるように服部が走り出した。
それに呼応するかのように利空が浮き玉で裏へとスルーパスを出したが、それを読んでいたのか近江がくっついて体を寄せていた。
仮にも全国に出ているチームのSBだ、服部に足の速さも負けていない。
「やらせるかよ!」
「くそ!」
近江に先に体を入れられ、ボールはキーパーへと戻されてしまった。
俺と安達もゴール前に走り出していたので通っていればチャンスだった。
パスの出しが一歩遅かったな。
「もうワンテンポ早く寄越せよ火ノ川! オフサイドに引っかかりそうになったせいでスピード緩めちまったじゃねぇか!」
「中に入ってくれるもんだと思ったんだ! サイドは俺と空で崩せるっての!」
「服部こそそれは勝ってくんねぇとなぁ」
揉めるな揉めるな。
最初のワンプレーにしてはチャンスだったって。




