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新生瑞都高校④

「おい高坂ぁ!」

「うわさっそく絡んできた」


 ツーブロックのように横を刈り込み、髪を後ろで縛った男が怒声を上げながら近付いてきた。

 朝の掲示板で7組にいることを確認してからずっと避けてきたのに、流石に部活になったら不可避か。


「俺様のことを忘れたわけじゃあるまいな」

天条てんじょうだろ、浦和ガンズの」

「そう! 貴様の永遠のライバル、天条てんじょう瑞稀みずき様だ!」


 勝手にライバルと名乗ってきているのは、同級生で元浦和ガンズユースに所属していた天条。

 ヴァリアブルにいた頃から勝手にライバル視され、この前ユースのセレクションを受けに行った時に見つかり、今後の展望を話したところ付き纏うようになった。

 なんか俺の周りストーカーしてくるやつばっかなんだけど。


「ライバルじゃないし、同じチームになったら意味ないだろ」

「何を言ってやがる! ジュニアユースの頃に散々やられたまま勝ち逃げしやがって。それで今回は高校の部活だと? また俺から逃げようとしたんだろうがそうはさせないぜ」


 お前から逃げるために部活に入ったわけあるか。

 自意識過剰にも程がある。

 だが実力があるのも間違いない。

 そのフィジカルと180近い高身長は、CBとして浦和ガンズのレギュラーとして1年から活躍していたそうだ。


「同じチームになったからこそ、普段の練習からお前と勝負ができるって算段よ! そして今度こそ俺がお前を止めて勝つ!」

「へいへい髪縛りノッポさんよ、高坂さんにイチャもんつけて絡むのはサムすぎるぜ」

「アンタなんかとじゃ実績が違いすぎる」


 火ノ川兄弟も割り込んできた。


「お前ら神戸の双子組だろ。わざわざ関西からこんなところに入学してくるとか、頭おかしいんじゃねーの?」


 お前が言うな。


「それだけじゃねぇ。なんだって新一年生はこんなジュニアユース上がりのやつが多いんだよ」

「そりゃオラ達も高坂さんと一緒にやりたくて入ったクチだべな。懸ける意気込みが違うべ」

「そういうこと。修斗さんに名前で呼ばれるようになるために来たんだ俺は」

「東京グレイブの大石とヴァリアブルの安達までもか」


 ここにいる半分以上は俺が声を掛けたメンバーだ。

 実力と実績がそれなりにあり、ヴァリアブルに対抗するための重要な戦力だ。

 問題は、このクセ強なメンバーにシナジーというものが存在するのかどうかという点にある。


「新入部員達はみんなまとまっているな。それじゃあ希望ポジションを元にメンバーを決めていくぞ」


 コーチがやってきてそれぞれ試合に出るメンバーの発表を始めた。


「まずGKは近衛このえりつ。大山中学出身でキーパー経験あり」

「はい」


 キーパーにしては少々小柄のようにも見える選手が返事をした。

 俺が声を掛けたメンバーにキーパーはいなかったから、経験者がいるのは助かるな。


「次、CBは2枚で天条瑞稀と藤井ふじい理人りひと。浦和ガンズと緑中みどりなか第三中学出身」

「おう!」

「はい」


 藤井という人も中学出身で俺の知らない1年生だ。

 身長は俺と同じ170くらいのさっぱりとした幼さの残る顔立ち。


「右SBは火ノ川空、左SBは天ヶ瀬(あまがせ)じゅん、テオダール神戸とFC町田セクトア出身」

「はいはーい」

「……す」


 天ヶ瀬は攻撃的SBとして優秀だ。

 冷静ながらも心は熱く、足の速さが持ち味。

 金髪で目付きが鋭く、コミュニケーションをあまり取ろうとしないところを除けば、ヴァリアブルと当たった時に光とのマッチアップで抑えてくれることを期待したい。


「DMFに大石義助、AFC東京グレイブ出身」

「はい!」


 やはりボランチに義助は堅い。

 相手のエースを潰せる人材は優秀だ。

 ヴァリアブルの翔平を完封できるレベルなら、高校でもきっと通用するだろう。


「RMFに火ノ川利空、LMFに椿つばき玲太郎れいたろう。テオダール神戸とFC横浜レグノス出身」

「はいはーい」

「はい」


 右のラインは火ノ川兄弟の二人が揃って来てくれただけで完成されたようなものだ。

 日本代表招集経験もあるこの二人だけレベルが違う。

 椿は他のジュニアユース生と比べると劣って見えるが、それでも基礎はしっかりしており左利きプレーヤーだ。

 大きなミスをしないため安定したプレーをしてくれるはずだ。


「OMFに……高坂修斗。東京ヴァリアブル出身」

「はい」


 トップ下。

 俺が最も得意としているポジション。

 もちろんフォーメーションの変化によって前線ならどこでもやれるが、周りがよく見えるのはやっぱりこのポジションだ。

 にしても…………東京ヴァリアブル出身という言葉、今になってこれほど違和感を覚えるとは思わなかった。

 ジュニアユースから高校を選んだという点では火ノ川兄弟や義助と同じなのに、俺はユースに上がれなかった立場だからなのか、もしくはヴァリアブルに対して敵対心を持っているからなのか……。


「CFは安達あだちみつぐ服部はっとり風雅ふうが。東京ヴァリアブル、鹿島オルディーズ出身」

「はい!」

「うーい」


 服部は裏抜けが得意だったはずなので、俺のスルーパスに反応してくれるはずだ。

 足がめちゃくちゃ速いというわけではないので、タイミングが素晴らしいんだろうな。

 安達は言わずもがなだ。


 コーチがホワイトボードにマグネットをポジションごとに貼り付け、名前を振った。


GK 近衛このえ りつ

DF 天条てんじょう 瑞稀みずき

DF 藤井ふじい 理人りひと

DF 火ノ川(ひのかわ) そら

DF 天ヶ瀬(あまがせ) じゅん

MF 大石おおいし 義助ぎすけ

MF 火ノ川(ひのかわ) 利空りく

MF 椿つばき 玲太郎れいたろう

MF 高坂こうさか 修斗しゅうと

FW 服部はっとり 風雅ふうが

FW 安達あだち みつぐ


「実績と実力を考慮して最初はこのメンバーで行く。もちろん後半からは出てない選手と入れ替えていくつもりだ。フォーメーションは基本系として4ー4ー2にさせてもらったが、もちろん皆で相談して変化させてもらっても構わない。これは君達の実力を見るための試合だ。存分にこれまで培ってきたものを見せて欲しい。アピールしてくれ」

「「「はい」」」

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