新生瑞都高校②
放課後、俺は部室棟へと向かった。
事前に顧問の宮村先生には入部届は提出済みだ。
そして瑞都高校には顧問とは別に監督やコーチが存在する。
強豪であるからこそ外部から雇われ、しっかりと指導する人達を擁しているようだ。
結局、俺は今日までサッカー部には顔を出していないので、顧問や同級生の部員以外とは初顔合わせになる。
部室の中がガヤガヤとしているので、既に部員が集まっているようだ。
こういうアウェイの空間に入る最初の1歩って結構勇気いるよな。こんなのでビビってたら先が思いやられちまうから気にしないけど。
俺はドアノブを回して部室へと入った。
「お疲れ様です」
一礼をして入ったところで雑音が静まった。
中にいた人達が話すのをやめて、一斉にこちらを見てくる。
圧倒的なんだこいつはという目だ。
なんだやるか。ファイティングポーズ取るぞ俺は。
「高坂じゃん! 本当に入部するんだな!」
俺と同じ身長ぐらいの茶髪ツーブロックが笑いながら声を掛けてきた。
確かこいつは……。
「5組の夜野だっけ?」
「おう、夜野悠真だ。今年からは4組だけどな。みんな、こいつが隼人さんが言ってた高坂修斗ですよ」
「ああ、こいつが!」
「あのヴァリアブルにいたんだろ?」
「狩野さんが引き込めたって大喜びしてたぜ〜」
みんなの不審者を見る目つきが知り合いを見かけた時の柔和な態度に変わった。
どうやら狩野先輩が話を通してくれていたみたいだ。
大多数は歓迎ムードだが、それでもやはり俺のことを信用できないといったように無視をする人達もいる。
まずはこの人達の信用を勝ち取ることが必要だ。
「まだ半分しか人は来てないけど、ここがサッカー部の部室になるから中にあるものは基本的に自由に使っていいぜ。高坂のロッカーはあれだな」
なんと『高坂 修斗』とシールが貼られ俺用のロッカーが準備されていた。
そんなに大きくはないので多くの物は入らないが、それでもスパイクを置いたりする場所を考えていたのでこれは助かる。
さっそく服を着替えてグラウンドへと向かった。
広く大きなグラウンドを前にして思わず感情的になる。
体育で普段使っていたというのに、練習着を着てここに立つだけでこんなにも変わって見えるものだとはな。
「高坂っち〜!」
感傷に浸っていたところで桜川が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「今日から正式にサッカー部だね!」
「ああ。ここまで来るのに、なんだか凄い時間がかかった気がするよ」
「まさか本当に高坂っちがサッカー部に入ることになるなんて……! これも一重に私のストーカー活動のおかげだね!」
「ストーカーを正当化させようとするな」
グラウンドには既に緊張な面持ちをしている新入生が多くいた。
その中でもオーラを放っている者が何名かいる。
それはもちろん俺の見知った連中でもあり、俺が声を掛けていない奴も含めてだ。
「今年はサッカー推薦で来た人が多いらしいよ。なんでも、本来の枠よりも多く取ったんだって」
本来あり得なさすぎてスカウト候補にすら上がらないようなジュニアユース上がりが、わざわざ瑞都高校に入学希望を出したんだろうからな、監督側か高校側かは分からないけど考慮して枠を広げたんだろう。
昨年なんて特に全国ベスト16まで行ったわけだし、サッカー部に力を入れるという判断していてもおかしくはない。
「卒業していった先輩達がほとんどの主力だったんだろ?」
「そうだねー。スタメンからベンチメンバーまでほとんどは卒業した先輩達だったよ。でもねでもね、3年生や2年生にも上手い人はもちろんいるよ。3年の花咲先輩や新キャプテンの恵比寿先輩、2年の夜野っちや木葉っちなんかはスタメン争いしてたぐらいだし」
桜川から見た上手いというのはきっと身内から見た贔屓目も込みであることを考慮しなくてはならない。
実際にそれを判断するには試合をすれば一発だ。
百聞は一見にしかずということだな。
「にしても新入生も今年は思ったより少ないな。この地域じゃ瑞都高校の実力はトップクラスだと証明されたわけだし、もっと来るものだと思ってたけど」
数で言えば15人程。
強豪校としてはまだ少ない気もする。
「ウチが全国に出たのって出願時期より後だから間に合わなかったんじゃないかな。この効果はきっと来年から出ると思うよ」
「じゃあ今年はもっと結果を出さないとだな」
「うん! 私もマネージャーとしてサポート頑張るからね! 張り切っちゃうよ〜!」
徐々にグラウンドには人が増え始め、コーチの掛け声で集合がかかった。




