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聖夜当日③

 ダメージを負いつつ、次に向かったのはスポーツエンタメパークと呼ばれている施設。

 ここでは卓球、ボウリング、カラオケを始めとした様々なスポーツを楽しめるところだ。

 安い値段で長く遊ぶことができるため学生には重宝されているらしい。

 瀬古が言っていたボルダリングもある。

 もちろん俺も来たのは初めてだ。


「こんなところあるんだね。修斗はあんまりサッカー以外のイメージないけどできるの?」


「この前ボウリングを椚田や瀬古達とやったぜ。コツは掴んだ」


「じゃあボウリングやろうよ」


 梨音に言われ、受付を済ませてからボウリング場へと向かった。

 俺はそれはもう経験者面をして梨音の前を自信満々で歩いていった。

 前回で把握した重さの球を準備し、レッツプレイゲーム!


「…………わぁ、ガーターだ」


「違うんだ梨音」


「私の知らない間にコツという日本語の意味変わったのかしら」


「まだ1球目だから! こっからだから俺は!」


 またしても球は溝を滑り進んでいく。

 おかしい。

 俺の使う球の比重がどちらかにかたよってるんじゃないか?


「もー全然ダメじゃん。私をお手本にした方がいいよ」


 自信満々にそう言って投げた球は、ピンを倒すことなく地下を通ってボール置き場に戻ってきた。


「お前も一緒じゃねーか!!」


「あれ……おかしいわね。これ重さのバランス偏ってるんじゃない?」


 俺と同じ言い訳をするな。


 その後もレベルの低い戦いは続いた。

 スコアが3桁なんて行くわけもなく、全てのピンが投球後に無くなることは一度も訪れなかった。

 しかし2ゲーム目の最終ラウンド、ついに梨音がストライクを取った。

 戦いなんてそっちのけで、二人してわーきゃー言いながら大喜びし合った。出来ないことが出来るようになった喜びというのはひとしおだ。

 たとえその後の2投がガーターであったとしても、興奮は冷めやらない。

 そして、梨音にドヤ顔されて俺が悔しがるまでがワンセットのようだ。


「修斗って、サッカー以外はダメダメなんじゃない?」


「そ、そんなことねーよ。他の球技はそれなりにできるんだ。バスケだったりバレーボールだったり……」


 全部体育の授業での話だけどな。

 運動神経が悪いわけじゃないのにボウリングとか特殊な球技は苦手なんだ、なぜか。

 とはいえさすがに文化系の梨音にスコアで負けたのは傷つく。


 続いて卓球、ダーツと行ったが俺がボロ勝ちしてしまった。

 どうやら俺はボウリングだけが極端に下手くそらしい。今後はもうやらない方がいいかもしれないレベルまである。


 外の明かりが人工的な物へと変わる頃、俺たちはスポーツエンタメパークを後にした。

 駅へと繋がる道路に生えた街路樹にはたくさんの星が色を変化させながらきらめいていた。

 俺達は目を奪われながらも自然と手を繋いで歩き出していた。

 本当はどこかのお店を取ることができれば良かったんだけど、取る時期が遅かったのかそんなに事が全て上手くいくわけがなく、俺は事前に下調べをし、道中で歩きながらでも食べられる軽食を買って近くの中央広場へと向かった。


 ここに集まっている人達はきっと俺達と同じ関係性の男女ばかりで、目的は同じなはずだ。

 それはこの時期になると毎年設置されるとても大きな1本のクリスマスツリー。

 派手なイルミネーションで着飾られたその木は、多くのカップルを虜にしていた。


「……凄い綺麗」


 それは梨音にとっても変わらないようだった。

 こんなにもキラキラとした童心に返ったような梨音の目を見たのは久しぶりだ。

 正直なことを言うと、俺にとってイルミネーションはそれほど心打たれるようなものではない。

 わざわざ色の付いただけの光を見て何が面白いのだろう、サッカーの練習をしていた方が有用的じゃないか。

 と、これまでの俺なら思っていただろう。

 イルミネーションには心打たれないけど、それを見て感動している梨音に俺は心打たれている。

 時間を掛けて下調べをしてあれこれプランを考えた結果、梨音が喜んでくれている。

 それだけで俺の心は満たされているんだ。


「ありがとう修斗。私、こんなに幸せなクリスマス初めてだよ」


 梨音の少し潤んでいる瞳に思わず吸い込まれそうになる。

 俺は照れ隠しに顔を背けて呟いた。


「…………来年もまた二人で見に来よう」


「……! うん、約束だよ」


「ああ、絶対に」


 繋いでいた手に力がこもった。

 決してこの手を離さない。

 この思い出が俺の人生の足を引っ張る事は絶対にあり得ない。これは辛い時、苦しい時に必ず力になってくれる動力源だ。

 暖かく、大切な想いは胸にしまって俺は次へと進もう。




 そして季節は春へと移ろぎ、俺達の新学年が始まる。

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