聖夜当日②
買い物とは言ったものの、特段俺が見たいものとかはない。
プレゼントは事前に買ってしまっているので、何かを探したりということはしないのだが、そもそも梨音と二人で買い物に出掛けるというのは、俺が梨音の家に同居させてもらった時以来だ。
その時も必需品を買いに行っただけなので、純粋にただふらついて見て回るというのは何気に高校生になって初めてなのかもしれない。
「修斗、あそこ寄ってもいい?」
色々と見て回った後、梨音が指したのはブティックだった。
「もちろん」
断る理由も無いので梨音に付いてブティックの中に入った。
衣服が多く売られており、それに伴ってアクセサリーも置かれていた。
梨音もこういう服とか見に来るのが好きなのかな。
「こういう店はよく見にきたり?」
「ううん、滅多に来ないよ?」
あれ、違った。
あんまり来ないらしい。
「気になる服があるとか?」
「うーん……気になる服というか……」
梨音が色々と品定めをしながら見て回ると、とあるところで足を止めた。
そこはマフラー、ストール売場だった。
「結構種類あるのね。うーん……どれがいいかな」
「マフラーが欲しかったのか」
「ちょっとね」
それ以上上半身の防御力を上げるくらいなら、下半身をもう少し隠した方がいいんじゃないのか。というのは無粋なんだろうなきっと。
俺ごときがオシャレに口出すのはやめておこう。
知識が無いことに対しては強く出ないのが吉だ。
「修斗、ちょっとこっち来て」
「はいはい」
梨音に呼ばれて近づく。
首にくるりとマフラーを巻かれた。
「…………なんで俺に巻くの」
「修斗に似合うやつを探してるからに決まってるじゃない」
「俺の!?」
なんで俺の探してんだ!?
「だって修斗寒そうにしてるし、クリスマスだし、プレゼント探さなきゃなーって思ってたし」
「俺そんな寒そうにしてたか? 梨音の方が寒そうに見えるんだけど……」
「ほら動かないで。修斗にはやっぱり青色系が似合うのかな…………でも柄ありの灰色も悪くないし……」
梨音が俺にマフラーを代わる代わる巻いていくのを、俺はまるで着せ替え人形のようにじっと立って見ていた。
梨音がマフラーを巻いてくるたびに顔と顔の距離が近くなる。
本人はマフラー選びに至って真剣なので、俺だけがそれを意識してドキドキしているのが解せぬ。
「やっぱ青系のこれにしよ! どう修斗、格好良いでしょ!」
「マフラーが? 俺が?」
「どっちも!」
こいつ……! なんか吹っ切れて照れというものがどっかいっちまってやがる……!
俺の照れ隠しのカウンターが何も効きやしねぇ!
「じゃあ買ってくるから待ってて」
梨音がそそくさとレジに行ってしまったので、俺は先に店の外に出て冷たい風を浴びて頭を冷やした。
半月前だったらなんてことないやり取りなのに、今はどうしても言葉や行動の一つ一つが心に刺さってくるんだが。
落ち着け、大丈夫。
俺はサッカーの試合では百戦錬磨の高坂修斗。
敵に先制を許してるからといって、まだ慌てるような時間じゃない。
俺にだってプレゼントと言う名の攻撃があるんだ。
会計を済ませた梨音がお店から出てきて、さっそくマフラーを俺に渡してきた。
「はい、メリークリスマス」
眩しいくらいの可愛い笑顔だ。
俺はそれを受け取ってすぐに首に巻いた。
普通に暖かくて助かるんだが。
着脱簡単だし、もっと早くに買っておけば良かった。
「ありがとう。めちゃくちゃ暖かい」
「良かったぁ。大事にしてよね」
「当たり前だろ。ということで……」
俺もコートの内ポケットから簡単にラッピングされた袋を取り出して梨音に渡した。
「これって……」
「俺からもメリークリスマス。事前に買っておいたんだ」
「えっ……開けてもいい?」
「もちろん」
俺が選んだのは手袋だった。
ベージュ色で手首の部分に羊毛のついたタイプ。
アクセサリーだとか色々迷ったけど、よく考えてみたら梨音がアクセサリー付けているところを見たことがなかったので、無難? というか俺なりにそこまで気合いの入っていない絶妙なラインを狙ってみた。
「うわぁ……可愛い……! ありがとう修斗!」
「サイズはたぶん問題無いと思うけど。付けてみぃ付けてみぃ」
梨音が手袋付けたところをベタ褒めしてさっきやられた分やり返してやる。
一転攻勢の時間だ。
「あっ…………一旦、今はいいかな……」
あれっ。予想と違う答えがきた。
「な、なんで? もしかして好みじゃなかった?」
「違う違う! そうじゃなくて───」
梨音が俺の手を握ってきた。
突然の出来事に脳がフリーズする。
手と手が触れ合っているところが熱を帯びてきた。
「手袋をしてたら…………こうやって直に手を繋げないでしょ……?」
「………………うぐぅ!」
ヤバい。
今日コールド負けするかもしれない。