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聖夜当日①

 12月24日クリスマスイブ。

 土曜の学校が休みの日、午後過ぎに俺は最寄りの駅よりも栄えている、別の駅前の広場で梨音を待っていた。

 本来であれば同じ家に住んでいるわけだし待ち合わせる必要なんてないのだが、なんでも梨音は午前中に用事があるみたいだったので現地集合という形になった。

 広場には俺と同じように待ち合わせで待っている人達が多くいた。

 かなりの人がいるのは土曜日だからなのか24日だからなのか。


さみぃなぁ……」


 下に二枚着てコートも羽織っているが、吹きつける風はこれでもかと身体を冷やしてきた。

 もっと着こんでも良いんだけど、新陳代謝が良くて汗をかきやすい俺はこれ以上着ると室内に入った時が困る。

 暖房が効く室内ではコートを脱いでも暑くなりがちなんだ。


 待ち合わせの時間から10分ほど遅れた頃に梨音がやってきた。

 駅からではなく反対方向からだった。


「ごめん修斗、少し遅れちゃって」


 若干息を切らしながら、申し訳なさそうに頭を下げた。


「気にすんなよ、たかだか10分。外国ならむしろ早く来た方らしいぞ」


「そんな外国と比べられても……」


 俺は思わず梨音の格好に見惚れた。

 それは普段家で見るTシャツスウェットとのギャップを感じたからなのか、そんな服持ってたんだと思わず口に出してしまいそうになる。

 俺は服に詳しくないから梨音の着ているものがどういう名称なのか分からないが、白の厚手のインナーに茶色のコートと上部分はとても暖かそうなのに、下はスカートで脚が出ている状態だ。

 ブーツを履いてすねまでソックスを履いているが、ぶっちゃけそれでも寒そう。

 これがあれか、冬でも常にスカートを履く女の子のオシャレに対する本気ってやつか。


 それに…………化粧? のせいなのかいつもより大人っぽく見えるな……。


「……なに? そんなにジロジロ見て」


「いや、なんかいつもと違うなって……」


「当たり前じゃない。だって…………初めてのデートなんだし……」


 うぐっ……!

 だから照れながら言うなよ……!

 意識しないようにしてたのに、否が応でも意識せざるを得なくなるだろ……!


「つ、つーか駅とは反対から来てたけど、午前中はここにいたのか?」


 俺は耐えきれなくなって話題を変えた。


「うん。実は冬華と一緒にいたの」


「八幡と? そりゃまたなんで」


「う〜んちょっと相談事かな。詳細は言えません」


「別に聞かないけど」


 聞かないけど気にはなる。

 こんな日に相談事とは。


「本当は集合時間にも間に合うはずだったんだよ? それなのに色々と邪魔されちゃって」


 梨音が憤慨したように言った。


「邪魔されたって……屈強なディフェンダー達でもいたのか?」


「なにそれ。違うよ。冬華と別れた後、ここに向かう途中で変なスカウトみたいなのにいっぱい声かけられたの」


 そう言って梨音はポケットから四枚ほど名刺を取り出した。

 そのどれもにタレント事務所だの芸能プロダクションだのが書かれていた。


「興味無いですって言ってるのにしつこかったりしてさ、やっぱり一人で歩くと面倒だね」


 変なスカウトっていうか……ガチなスカウトなんじゃないの? こういうのって。

 当たり前過ぎて忘れてたけど、梨音はとんでもなく可愛いんだよ。

 それこそ、見た目だけで言えば本来俺なんかとは釣り合わないぐらいに。

 この前だって同じクラスの藤本に告られてたって言ってたし…………あれ? 俺、その時なんて返してたっけ。記憶に残ってないってことはスゲぇ適当に返してたのかな……。

 あの時はサッカー以外に何も感情が動かされなかったから……うーん。


「梨音は芸能活動とかに興味無いの?」


「無いよ無い無い。写真とか撮られたりするんでしょ? 好きじゃないもん」


「生徒会の広報では写真撮ってたじゃん」


「それは神奈月先輩に言われたからだし。漫画描いてる方が楽しいし」


「そうだ。そういえば梨音はオタクだった」


「もう否定はしないけどね。修斗にはバレてるから」


いさぎよし。じゃあそろそろ行くか」


「うん」


 俺と梨音は買い物に行くために広場を離れた。

 ふと手を繋ぐべきかどうか迷って手を出そうとしたけど、切り出すのがどうしても恥ずかしくて引っこめてしまった。

 文化祭の時は普通に手を繋げたというのに、関係性が変わって意識するようになっただけでこんなにも緊張するようになるなんて。

 試合前ですらこんなにも緊張したことはないのに。

 もしかして俺って、チキンなの?

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