聖夜準備①
12月も残すところ二週間。
俺は連絡を寄越してきたメンバーを確認した。
一人目は大石柚葉先輩の弟でAFC東京グレイブジュニアユース生の大石義助。
元々瑞都高校に来ること自体決めていたようだが、俺が部活に入ることを聞くとすぐにクラブ側にはユースに昇格しない旨を伝えたみたいだ。
相手のエースに仕事をさせない、潰し屋としての素質があるいい選手だ。
それから大阪の火ノ川兄弟。
この双子も瑞都高校に来ると連絡があった。
大阪から東京に来るにあたって色々と問題はあるようだが、それはなんとかしてみせると文面でも分かるぐらいテンション高めの返信が来た。
俺は二人のプレーレベルのイメージが1年前で止まってしまっているが、今年は東京ヴァリアブルを下して優勝しているのを鑑みるに、その実力は疑う余地がないはずだ。
つーか本当に来るのかよこいつら。
そして4人目については意外というか、本当にその決断をして大丈夫なのかと心配になったのでこちらから電話を入れた。
「もしもし、高坂だけど」
『修斗さーん! どしたんすかわざわざ電話なんて』
「どうしたじゃないよ。本当にいいのか? 安達」
電話の相手はヴァリアブルでワントップを張っている実質エースの安達貢だ。
安達については俺から声を掛けた覚えはない。
サッカーをどこでやるか聞かれたので高校の部活だと答えたら、しばらくして自分も瑞都高校の部活に行くと言い出したのだ。
『瑞都高校、調べたら今年結構良いところまでいってるじゃないですか。全然アリですよ!』
「そうじゃなくて。お前は仮にもヴァリアブルのエースだろ。来年からはユースに上がるだろうし、涼介や優夜とまた一緒にやれるだろ」
『…………いやー実はそこなんですよね』
電話越しでも分かるぐらいに、安達の声のトーンが落ちた。
『優夜さん達の代は『ヴァリアブル世代』なんて呼ばれててトップチームでも活躍できるぐらい凄い人達じゃないですか』
「まぁ……そうだな」
『それってつまり、優夜さん達がいる間は俺って絶対にレギュラーになれないってことじゃないですか』
「………………」
その問いに俺は押し黙ることしかできなかった。
確かに優夜と比べると安達は数段劣る。
プレースタイルが似ているからこそ、それは顕著に判断されてしまう。
つまり、長くても2年間はAのベンチかBチームで過ごす可能性が高いということだ。
もしかしたら優夜が来年か再来年中にトップチームや海外に行く可能性もあるかもしれないが、それはあくまで可能性の話だ。
実際はどうなるか分からない。
『だから俺、結構考えてたんですよ。このままユースに上がってもいいのかなって。そしたら修斗さんが復帰して高校でやるって言うじゃないですか。リハビリ兼ねてかなって思ったら、来年からはプリンスリーグでやるぐらい強豪みたいですし、ヴァリアブルのBチームもプリンスリーグでやってること考えたら一緒じゃないすか』
「だけど部活の方がユースよりも競争率は高いらしいぞ。人数も多いし……」
『蹴散らしてやりますよそんなん! 俺だって半端な覚悟でユース昇格蹴らないす! それに修斗さん、プレミアリーグに上がってヴァリアブルを倒すつもりっすよね?』
「なんだ気付いてるのか」
『当たり前っすよ! 俺にも手伝わせてください、その仕事!』
「…………ああ、助かるよ。一緒に頑張ろうぜ」
『はい!』
俺は安達との通話を切った。
安達の今の実力ではユースでレギュラーが取れないという判断は間違いない。
見方によっては〝逃げ〟だと捉えられてもおかしくはないし、安達もその点は理解している節があった。
それでも試合に出るために移籍を希望するというのはプロの世界でも実際にあることだし、それを中学3年生で決断できるのは大したものだ。
将来、ヴァリアブルと戦うにあたり賢治とマッチアップすることを考えると現時点ではやはり安達に勝ち筋は見当たらないが、それでも安達は俺達と同じ中学時代を過ごし、名門東京ヴァリアブルジュニアユースのエースとして試合に出ていた選手だ。
言ってしまえばその世代の上澄みに当たる。
伸び代は無限大というわけだ。
そして何より、俺と中学時代に一緒にプレーしたことがあるというアドバンテージ。
もしかしたら連携の取りやすさは安達が一番なのかもしれない。
他にも連絡が何人か来ていた。
俺がセレクションを受けに色々なクラブを回っていた時に連絡先を交換した奴らだ。
全てのクラブではないが、セレクション時にジュニアユースもいたので世間話を兼ねて連絡先を交換し、この前部活に入ることを話したところ、数人だが釣れた。
鹿島オルディーズの服部風雅。
FC横浜レグノスの椿玲太郎。
町田FCセクトアの天ヶ瀬純。
ああ……あと一人、転入してやるとかほざいてた奴いたけど……そいつはいいや。来ても面倒くさいし。
とまぁ、来年に向けたサッカー部のチーム編成は順調だと言える。
だが俺の目下のミッションは別にあった。
それは来週、もうすぐやってくる。
「12月24日…………どうすりゃいいんだ」
クリスマスイブ。
さすがに去年みたいに梨音の家で飯食うだけじゃダメだよなぁ……。