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若元梨音③

「おー梨音。わざわざ待ってたのか」


 修斗はベッドの上で足を吊られるようにして寝ていた。

 修介おじさんからは落ち込んでいたという話だったのに、修斗に落ち込んでいる素振りは全然見られなかった。


「修斗…………足は……」


「俺は全然大丈夫。この足だって蹴れなくなる可能性があるってだけだし、リハビリを頑張ればきっとまたサッカーできるようになるさ。それに、たとえサッカーができなくなっても俺の人生が終わるわけじゃないんだ。また夢中になれるものを探すよ」


 そう言ってアハハと笑う修斗。


 良かった。

 思っていたよりも修斗はずっと元気だった。

 私が何か声をかける前に、自分の中で収拾をつけたんだ。


「修斗ならきっとできるよ」


「だろ? 頑張るぜ俺は」


 その姿に安心した私は飲み物を買ってくるといって部屋から出て、1階の自動販売機でスポーツドリンクを買ってから再び部屋へと戻った。


(泣いてる声……?)


 部屋へ入ろうと扉に手を掛けた私は、部屋の中から啜り泣く声がしたことに気付いた。

 扉をそっと開けて中を見ると修斗がベッドのシーツを強く握って涙を流しながら泣いていた。


「うっ…………うっ……くそぉ…………! なんで…………なんで怪我なんか…………! 俺からサッカーを取ったら…………何が残るっていうんだ…………! くそぉ…………!」


 その姿を見て胸の奥が熱くなり、私の目からも涙が溢れた。そっと扉を閉めて、その場に私もうずくまった。


 ショックを受けていないわけがなかったんだ。

 修斗は私に心配をかけないように、弱い部分を見せないようにと強がっていただけなんだ。

 それなのに私は、そんな事も気付かずに「修斗ならできる」なんて無責任なことを言ってしまった。


「私は…………馬鹿だ……!」


 本当に修斗のことが心配なら、強がっていることにも気付いてあげられないといけなかった。

 本人が一番辛いはずなのに、本来なら他の人のことなんて気にする余裕なんてないはずなのに、気を遣わせてしまうなんて。

 私は結局、修斗のことを何にも分かっていなかったんだ。


(私が修斗のために出来ることは…………)




 次の日から私は学校終わりや休みの日など、行ける日は全て修斗が入院している病院にお見舞いに行った。

 これまではサッカー推薦で高校を決める予定だったけど、その可能性が潰えたために一般入試を受けて高校に進学することになったため、勉強を私が教える必要があった。

 修斗と同じクラスの人やサッカー関係の人達も最初の頃はお見舞いに来ていたけど、2週間後にはあまり来なくなっていた。


 そして入院してから3週間後、修斗は自力で歩くためのリハビリを始めた。

 最初は立ち上がることすらままならなかったけど、修斗は一度も弱音を吐くことはなかった。

 少しづつだけど確実に、日々のリハビリのおかげで入院してから1ヶ月半後にはゆっくりだけれども自力で歩くことができるようになった。


「見たか梨音ほら! やっと一人で歩けるようになったんだぜ! ほれほれ!」


「はいはい分かったから。やっと1歳児に並んだね」


「何でそういうこと言うんだ」


 茶化してみたけど、私も嬉しさのあまり口元がニヤニヤとしており、それを見た修斗は満足そうに笑った。


 そして怪我してから2ヶ月後、修斗は無事退院した。

 すぐに受験が控えていたけど、修斗は元々地頭も良く、入院中も勉強していたおかげで家から一番近い瑞都高校に合格することができた。

 私ももちろん瑞都高校。


 修斗との縁はまだまだこれからも続きそうと思った3月の終わり、私はお父さんからとんでもない話を聞かされることになった。


「梨音、4月から修斗がここに住む事になったから」


「……………………え?」


 修斗が…………一緒に住む?

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