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元野球少年①

【高坂修斗目線】


 12月初旬。

 冬の寒さが本格的になりつつあるこの時期に、俺は河川敷をランニングしていた。

 舗装された道で急な坂が無いこの道は走るのに適している。

 俺に足りないのはスタミナと試合勘。

 ひとまず失ったスタミナだけは取り戻したいと毎日ランニングを続けていた。


 そしてその途中で見慣れた人物が声を掛けてきた。


「おっす、修斗」


「新之助」


 休みの日にこんなところで会うとは珍しい。

 新之助の家は数駅離れているはずだ。

 とすれば偶然、というわけでもないのか?


「ちょっといいか?」


「今走ってるんだ。話なら後で携帯に……」


「まぁまぁ良いじゃねぇか! 親友の話が聞けないってか!?」


「酒飲んだ嫌な上司みたいな言い方するなよ」


 新之助が俺の首に腕を回して引き込んできた。

 やっぱり俺に用事があったから待ち構えてた感じか。


 俺は諦めたように新之助に続いて土手に座った。


「ぷぷぷ」


「……何笑ってんだよ」


「巨人化した後じゃん」


「意味分かんねーよ。しょうもない話なら行くわ」


「だぁー待て待て冗談ですやん! ほんのジョークですやん!」


 相変わらずこいつはホント……。

 話の導入で一度茶化そうとしてくるんだよな。

 しかもそういう時に限って真面目な話をしようとする。

 新之助なりの緊張のほぐし方なのか、単にそういう性格なのかは分からないが。


「わざわざ呼び止めて、何の話だよ」


「どうでも良いけどどうでも良くない話だよ」


「はぁ?」


「最近、追い込みすぎじゃないか?」


「…………」


 なんとなく察してはいたけど、やっぱりその話題か。

 ここしばらくの付き合いは全て断っていたし、そろそろ見限られてもおかしくはない頃だと思っていたが、まさか直接新之助が話をしにくるとはな。

 新之助のこれほどまでに真剣な表情を初めて見る。


「そんなことはない。俺にとっては追い込んでいるつもりはないな。そもそも俺がなんで遊ぶのをやめたのか知ってるのか?」


「当然だろ。サッカーに打ち込むため、だろ」


 なんだ知ってるのか。梨音あたりが話をしておいてくれたんだと思うけど。

 分かっているなら、なおさら新之助が釘を刺しにくる理由が分からないな。


「俺は自分に足りないものを取り戻しているだけだよ。追い込んでなんか───」


「それ以外全てを切り捨てることが追い込んでないだって? おいおい修斗、つまんねー奴になっちまったな」


 新之助の言葉に少しムッとした。

 俺がどんな思いで元チームメイト達の活躍を見させられたと思っているんだ。

 あの時の、悔しさに身体中が焼かれるような感覚を新之助は知らないだけだ。


「新之助は昔の俺を知らないだろうが、俺は元来がんらい負けず嫌いなんだよ。俺は俺を馬鹿にした奴を見返さなきゃ気が済まない」


「それが大切な人をないがしろにすることになってもか?」


 新之助が誰のことを指しているのか分からなかった。

 まさか自分のことではあるまい。

 確かに色々と優先順位に優劣をつけたが、誰かを蔑ろにしているつもりは無い。

 付き合いは悪くなった自覚はあるが、サッカーがやれない学校にいる間は付き合いもちゃんとしているつもりだ。


「新之助の言っている意味が分からないな」


「自覚症状無し、ね……。修斗の言い分も分かるぜ、俺も元野球少年としてな」


 そういえば新之助もシニアで野球をやっていたと言ってたな。


「だからこそ修斗には俺と同じ過ちを犯して欲しくねぇんだ。状況もやってることも俺なんかとは違うけど、周りを切り捨てようとしている境遇は同じだ」


「別に切り捨ててるつもりは……」


「なら、どうして若元は泣いてたんだ?」


 梨音が…………泣いてた?

 なんで?

 俺が関係してるのか?


「梨音が泣いてたなんて俺は知らない」


「だろうな…………。少し昔話に付き合ってくれよ。きっと、今の修斗にも必要なことだ」


 そして新之助が話始めたのは、シニア時代のことだった。

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