誘引拒絶②
【熊埜御堂将太朗目線】
─11月下旬─
「噂は聞いてるぞ。お前、色んなクラブユースのセレクションを受けて回ってるそうじゃないか」
「噂にまでなってんのか。まぁ7ヶ所ぐらい受けたからな」
川崎アルカンテラユースに来ていたのは高坂修斗。
俺に直接連絡があったと思えば、セレクションを受けさせてほしいというものだった。
巷では高坂が復帰して各所のセレクションを受けて回っていると情報が流れていたので、いずれ来ると思っていたらその通りだった。
「どこを受けた?」
「そうだな…………FC横浜レグノス、鹿島オルディーズ、名古屋クラウディア、浦和ガンズ、ジェボーダン木更津、町田FCセクトア、FC大宮フォルランかな」
「有名どころばかりだな」
「今回みたいなコネがあるところもあったからな」
「ふん、ユース関係者でお前の名前を知らない奴はモグリか海外にいたやつぐらいのものだ。この俺とキックターゲットで引き分けたお前なら、連絡しただけで顔パスだろう」
「いやいや、いくつかはもちろん断られたところもあるよ。つーかこの俺とって、自信過剰具合がスゲーな」
「はっ、お前だって自分が一番だと思っているだろう」
俺の問いに高坂は不適な笑みを浮かべて答えた。
「将来的にはな。フリーキックだって熊埜御堂に負けねーさ」
「お前ごときが俺を超えるのか?」
「前にも言ったろ? 超えてみせるさ」
やはりこいつは面白い。
高坂がいれば、俺もさらなる高みに登れそうだ。
だがこいつ、ここを受けにきたことで分かるように、セレクションを受けてはいるがユースに入ることはしていないようだ。
こいつが受からないわけがないから恐らく、全て保留にしているか断っているはず。
気に食わなかったのか色が合わなかったのかは知らんが、つまり高坂は今、選り好みをしているわけだ。
高坂がいれば、俺と高坂で敵陣の全範囲がフリーキック射程内になる。
それに二人で並び、どちらが蹴るか分からなくすれば、さらにキーパーに揺さぶりをかけて成功率が上がる。
ヴァリアブルの奴らを倒すためにも、こいつは必要だ。
高坂がセレクションメニューをこなしている間、俺たちはいつもの練習をこなし、5vs5のミニゴールを使用したミニゲームのタイミングで高坂が混じってきた。
(ミニゲームじゃフリーキックがねぇだろ)
思わず歯軋りをした。
高坂のフリーキックのレベルの高さをコーチ達も知っているはずなのに、実戦の中でそれを見ないとは一体何を考えているんだ。
「高坂はビブスを着てもらっていいか。クマ、高坂と同じチームでどうだ?」
コーチが俺にビブスを渡してくる。
「結構です。俺はパスします」
「かぁ〜生意気言いやがって。同じヴァリアブル世代だろ」
ヴァリアブル世代か。
そのくくりで呼ばれることがあるが、俺は好きじゃない。
ヴァリアブルに俺以上のフリーキッカーはいないだろう。
同列に語ってもらいたくはないな。
「じゃあいいや。宇賀と加瀬もビブス側で後は───」
俺はミニゲームには参加せず、外から観戦することとした。
正直、ミニゲームは嫌いだ。
俺はフリーキックだけは誰にも負けない精度を持っていると自負しているが、それと同時に通常のプレーはゴミみたいなものであることも自負している。
そもそも普通の人が通るべき練習を全てフリーキックに費やしてきたから仕方ない。
実際に結果を出している以上、監督やコーチ、チームメイトも何も言わないしな。
「クマ、高坂は使えると思うか?」
2年生の蒼崎彼方が声を掛けてきた。
レギュラーのFWで、高身長のためセットプレーから空中戦で戦うことを期待されている。
「少なくとも彼方さんよりかは」
「てめっ。俺のが先輩だってのに相変わらず口の減らないやつだぜ」
「高坂がいれば俺達のセットプレーのバリエーションが増えます。俺は絶対に欲しい」
「まぁあのキックターゲットを見りゃあなぁ……。中学の時はそりゃとんでもなかったが、怪我でヴァリアブルを辞めたって聞いた時は他人事ながらショックだったぜ」
「そんなにか?」
「プロはもちろんだが、こいつらなら将来とんでもないことをしてくれるんじゃないかってな。ったく、俺のが先輩だってのに尊敬までしちまうぐらいだ」
「ふっ、あのフリーキックが蹴れるからな、当然だ」
「お前…………マジでフリーキックしか興味ねぇのな」
「当然だ」
しばらくして、ミニゲームが開始された。
キーパー不在のシンプルな5vs5だ。
ただし、3タッチ以内というゴミみたいなルール付き。