誘引拒絶①
【若元梨音目線】
修斗が生徒会に来なくなってから二週間。
神奈月先輩の話ではひとまず保留という形で落ち着いたそうだ。
宇佐木先生も修斗と話し、大きな行事の無い2学期は席を残しておいてもいいだろう、本当にやめるかどうかは3学期になってから決めろ、とのことらしい。
私もあれから家で話すのも少し距離ができてしまったように感じる。
中学の頃もサッカー以外の話題はほとんど興味を示さなかったけど、今はそれがもっと顕著に感じる。
とても不安定なバランスの上に成り立っているような危うさを感じる。
だけどそれを私にはどうにもすることができない。
「若元〜八幡〜、帰りにニノとマック寄ってくんだけど行くかぁ?」
佐川君から道草のお誘いが来た。
特に用事も無かったので二つ返事で返した。
「修斗は? あいつにも声掛けようぜ」
「修斗は……」
見るとちょうどカバンを持って教室を出て行くところだった。
「私が声かけてくるね」
「おっ、頼んだ」
私もカバンを持ってすぐに修斗の後を追った。
階段のところで追い付いて声をかける。
「修斗! …………ちょっといい?」
「梨音。どうした?」
特に変わらない普段通りの修斗のように見える。
マックに誘うだけだというのに、少し心臓の動悸が早くなる。
一拍落ち着いて私は声を出した。
「このあとみんなでマック行くんだけど、修斗も来ない?」
「マックか…………」
うーんと少し考える素振りを見せる修斗。
「悪い、この後ランニングしないとだし、最近はそういうものを食べないようにしたんだ。梨音も知ってるだろ?」
確かに文化祭の日以降の食事は、修斗にお願いされて過度な脂物を出さないように気を付けることにしたんだ。
甘い物とかも全く食べなくなった。
「で、でもたまには食べたりするのも悪くないんじゃないかな。ほら、みんなだっているし最悪食べなくても一緒に話したりとか───」
「梨音」
低い、底冷えするような声に思わずビクリと体が震えた。
修斗からは聞いたことのない声だった。
「梨音が気遣って俺を誘ってくれてるのは分かるけど、余計なことはしないでくれ」
「ご、ごめん…………」
「怒ってるわけじゃないんだ。ただ、これ以上俺のことで気を遣わせるわけにもいかないからさ。俺のことは気にしないで、梨音は楽しんでこいよ」
「…………うん」
〝だから生徒会も辞めるの?〟という言葉が口をついて出そうになったが、グッとこらえた。
この言葉もきっと今の修斗にとっては気に障る言葉な気がする。
私はみんなのところに戻って修斗は来れないことを伝えた。
「そっか…………若元でもダメか」
「私でも?」
「おお。俺やニノでちょこちょこ声を掛けてたんだけどな、最近はめっぽう断られてばっかでよ。そこで1番の幼馴染から言ってもらえれば修斗も来るかと思ってな」
「またそうやって梨音のことを出汁にして……」
「でもコーサカ君どうしたんだろうね? 何か夢中になることでも見つけたのかな?」
どうやら修斗はまだみんなにサッカーに打ち込み始めたことを話していないみたいだった。
特に佐川君には話していそうだと思ったのに。
「若元は何か知らない? 修斗の弱みでもいいぜ」
「そんなもの知ってどうするのよ」
「…………実は」
「梨音も言わなくていいのよ!?」
「ううん、弱みの方じゃなくってね……」
私は3人に修斗の付き合いが悪いことについての理由を話した。
話すたびに修斗のことを思い出しては心が苦しくなる。
「そっか……修斗のやつ、怪我が治ったんだな。良いことじゃん」
「元々コーサカ君はサッカーで有名だったんだよね? 一時期動画でも大騒ぎにもなってたし……やりたかったことができるなら僕も良いことだと思うけど」
「うん……そう、だよね……」
やっぱり普通は佐川君やニノみたいに祝福して然るべきなんだ。
間違ってるのは私。
これはただの私のエゴ。
修斗と一緒にいられないからって、修斗の邪魔をするのは間違ってるんだ。
みんなが望んでいるのも、修斗がサッカーの道を一直線に突き進む姿なんだ。
「…………梨音はそれでいいの?」
「な、なんのこと?」
冬華が聞いてきた意味を私は理解していたけど、分かっていないフリをした。
「高坂、誰かが手綱を握っててあげないと危ない気がしたんだけど」
「手綱だなんて…………修斗はきっと一人でも大丈夫だよ」
「そうかしら? 梨音がいいって言うならいいんだけど……」
冬華は私の修斗に対する気持ちに気が付いているからこそ釘を刺したのかもしれない。
隣にいなくてもいいのかと。
「じゃ、しばらくは修斗のことは放っといてやろうぜ。遊びたくなったらアイツからまた来んだろ」
「そうだね」
「ええ」
「………………うん」