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脱退宣言②

【大城国紗凪目線】


 ─11月上旬─


「上々上々! まさかお前から連絡が来るとは思わんかったぞ」


「そうか? ここは選択肢としてかなり良いところだろ」


 10月も終盤に差し掛かった頃、突然高坂修斗から連絡が来た。

 内容としては我らが横浜レグノスのトライアウトに受けたいというものだった。

 前にフットサルをして以来、特段連絡を取っていなかったのでシンプルに驚いた。

 あの時声を掛けたのは冗談半分、本気半分だったんだがな。まさか本当にウチに来たいと言い出すとは思わなかった。


 連絡を受けてさっそく俺は大野監督に話を持っていき、トライアウトを受けさせることは可能か相談した。


 〝高坂修斗〟


 監督も当然名前を知っていた。

 怪我でヴァリアブルを抜けたことも。

 俺は一度フットサルで一緒に戦ったことも話し、絶対にトライアウトだけでも受けさせるべきだと説明した。


『大城国がそこまで持ち上げるのは珍しいな……。よし、ひとまず上に掛け合ってみよう。欠員が出ているわけでもないから本来はやらないんだが』


 大野監督が関係各所まで話を広げ、特別に高坂を見てもらうことになった。

 そして今日、高坂がレグノスユースのグラウンドにやって来たのだ。


「だっはっは! 今年のウチは一味違うぞ! プレミアリーグでヴァリアブルに続いて2位だからな!」


「そりゃ優秀な選手も多いしな…………おっ、翔哉さん!」


 高坂が見つけたのはレグノスのキャプテンを務めている2年生の三船翔哉さん。

 Uー18の日本代表にも参加しており、昔から代表で高坂と顔馴染みらしい。

 靴紐を結ぶために座っている翔哉さんに高坂が近付いた。


「修斗マジで復帰したのか! 久しぶりだなぁおい」


「紆余曲折ありましたけどね。今日はよろしくお願いします」


「トライアウト受けるんだってな。頑張れよ」


「ええ、頑張ります」


「翔哉さん、俺がこいつを連れて来たんですよ。なんか褒美があってもいいと思わんすか」


「思わねぇよバナナでも食っとけゴリラ」


「だっはっはっ! この言われよう酷いと思わんか高坂よ!」


「ガタイは化け物だもんな」


 化け物とは言い過ぎだろ。

 確かに身長は190に届いてしまったがな。


「高坂修斗が来るって聞いてたけど本当だったのか」


「熊埜御堂との動画見ましたよ高坂さん」


 他のユースメンバーもワラワラと集まってきて高坂に声を掛け始めた。

 ここにいるほとんどがジュニアユース時代、高坂に痛い目に遭わされたやつばかりだ。

 もしかしたら快く思っていないやつもいるかもしれない。


「どうですかい翔哉さん、高坂が入ったらヴァリアブルを倒すのも夢じゃないかもですよ」


「どうだかな」


 丁寧に一本ずつ穴に紐を通す翔哉さんの返事は思っていたよりも否定的なものだった。


「高坂がサッカーできるようになったのは最近だって話だろ? そりゃ中学の頃はスゲかったけどよ、ジュニアユースとユースじゃ何もかもが違う。ナメてもらったら困んだよ」


 翔哉さんの言葉にも一理ある。

 俺も最初の2ヶ月ぐらいは試合のスピード感に慣れるのに手こずった。

 それに足元の技術もより求められる。

 俺の場合は空中戦でゴールに叩き込んで結果を出す分、多めに見てもらっているが、他の同期のやつはまだ誰もAチームのベンチ入りすら出来ていない。

 高坂がユースで馴染めるかという問題は解消されていないのだ。


「高坂なら大丈夫だと思うんですがねぇ」


「結果を残すまで、俺にとってはどうでも良い存在なんだよ」


「ひゅー。厳しいっすなぁ。応援してたじゃないですか」


「社交辞令に決まってんだろ」


 ありゃりゃ冷たい。

 他のやつが翔哉さんにビビってるのはこういう一面があるからなんだよな。

 俺も中学の頃にヴァリアブルにタコられてた時はよくドヤされたもんだ。


「高坂君。軽く準備運動が出来たらそれぞれタイムを測っていきたいから来てくれないか」


「分かりました」


 コーチ陣に呼ばれて高坂が輪の中から外れた。

 俺達が練習している傍らで高坂はそれぞれ能力を調べられるようだ。

 後方腕組み理解者面で見ようとしたがコーチに怒られた。自分の練習をしろだとよ。


 練習を始めた頃、高坂が短距離や瞬発力を測っているのが見えた。

 足を気にしている素振りが見られないので、本当に治ったのかもしれないな。

 俺とフットサルをやった時は1本全力で走っただけで手当を受けていたぐらいだ。

 その頃から比べればだいぶ良くなっているのは間違いないだろう。


 だが持久力の部分で手こずっているのが分かる。

 走れるようになったのは最近ってところか。


「おい紗凪集中しろって」


「分かっとるわい」


「顔が明後日の方向いてんだよ!」


「だっはっは! 明るい未来を眺めてるからな!」


「うっぜ!」


 適当に茶化しているとコーチ達がこちらへ集まってきた。


「みんな集まってくれ。この後の紅白戦だが、Bチームの方に高坂君を入れてやってもらう。Bチームは高坂君と話し合ってポジションを決めてくれ」


 おお! 面白そうな展開だな!

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