プロローグ
時期は12月頭。
文化祭から1ヶ月と半月。
「おっす、修斗」
「新之助」
河川敷にてランニング中の修斗に声を掛けた。
休みの日は毎回同じ場所を同じ時間に走っていると若元から聞いていた通りだった。
「ちょっといいか?」
「今走ってるんだ。話なら後で携帯に……」
「まぁまぁ良いじゃねぇか! 親友の話が聞けないってか!?」
「酒飲んだ嫌な上司みたいな言い方するなよ」
久々に心地の良いツッコミが飛んできた。
やっぱり俺のボケに的確にツッコめるのは修斗だけだぜと、思わず笑う。
ランニングの邪魔されるのを嫌そうにする修斗を半ば強引に土手に座らせた。
風が吹くと肌を刺すような寒さだ。
汗との気温差で修斗の周りから蒸気がほとばしっている。
「ぷぷぷ」
「……何笑ってんだよ」
「巨人化した後じゃん」
「意味分かんねーよ。しょうもない話なら行くわ」
「だぁー待て待て冗談ですやん! ほんのジョークですやん!」
立ちあがろうとする修斗をすぐに抑えた。
見限るスピードが早すぎだっつーの。
「わざわざ呼び止めて、何の話だよ」
「どうでも良いけどどうでも良くない話だよ」
「はぁ?」
「最近、追い込みすぎじゃないか?」
「…………」
文化祭が終わった頃から修斗は明らかに付き合いが悪くなった。
理由は誰にでも明白で、サッカーに向き合う時間が長くなったからだ。
修斗の場合はそれが顕著だったというか、性格も少し変わったように思える。
別に冷たくなったとかそういうことじゃないし、昼飯を食う時だって普通に会話はする。
でも俺が好きなグラビアアイドルの話をしても乗っからなくなったし(それは元からな気もするが)、放課後の誘いは全て断るようになった。
興味を無くしたのか、強いて言えばノリが悪くなった。
とはいえ別にそんなのは責められるようなことじゃなく、むしろ何かに真剣に打ち込むようになるというのは応援されるべきことだ。
だけど。
だけどだ。
『修斗が…………もう戻って来れなくなるんじゃないかなって……』
若元が泣いていた。
幼馴染を泣かせるのはダメだろう。
若元にとって修斗が特別であるように、修斗にとっても若元は特別な存在のはずだ。
俺のことは切り捨ててもらって構わないが、大切な人まで犠牲にするのはナンセンスだ。
それだけは俺が許せねぇ。