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文化祭2日目①

 その後、食材が無くなったことで提供できるものもドリンクしかないということで店仕舞いにすることとなった。

 遅くなればなるほど飲食店系は閉店となるところが多い。

 夕方になる頃には余った食べ物は自分達で食べるために作る店ばかりで、人のほとんどは体育館や空き教室で行われる催し物に参加していた。

 日が傾く頃、文化祭自体は終了となり、それでも明日の準備や文化祭の余韻に浸り学校に残る人が多かった。

 俺達も明日の準備を終わらせ、帰宅路に着くのであった。


 初日はつつがなく終わり、文化祭二日目の朝。


「お、おはよう」


「おはよう」


 今日は梨音と文化祭を見て回る日だ。

 何故か梨音の動きがぎこちない気がする。

 まさか今さら緊張してるのか? 俺相手に?


「そんな固くなることないだろ」


「べ、別に固くなってないよ!」


「あ、そう」


 梨音が作ってくれた卵焼きを口に頬張った。


「ぶぇ!? しょっっぱ!!」


「え、やだごめん! お砂糖と間違えた!?」


 すぐに梨音からお茶を貰い、口の中を潤した。


 なんて初歩的なミスを……。

 そんなドジっ子のテンプレみたいなミスを梨音がするとは。


「本当に大丈夫かよ……」


「うう……申し訳ない」


「いや別に怒ってないけど……」


 お客さんに出す食事じゃなくて良かったな、ってことにしておこう。



 学校の食堂に顔を出すと、コスプレの服を昨日と変えている人が多々見受けられた。

 なんだかんだみんな楽しんでるよな。

 ちなみに新之助も流石に反省点を活かしたのか、着ぐるみをやめて白衣を身に纏っていた。

 ただの白衣がコスプレと呼べるのかは甚だ疑問ではあるが。


「今日の俺は〝狂気のマッドサイエンティスト〟なんだ!」


「こいつ頭打ったのか?」


「なんでも最近見たアニメのキャラらしいよ」


「影響されやすい奴だな」


 俺は昨日と変わらず執事服のままだ。

 特に変える必要もないし、着たいものもない。

 イベントごとは楽しんだ者勝ちと言うが、無理に引っ張られすぎても疲れるだけだ。

 昨日と同じやり方でも十分に楽しめるはずだ。

 それに、今日は梨音と一緒に回る約束があるんだからな。


 午前中、昨日と同じように接客をして過ごし、途中のタイミングで休憩時間となる。

 そこで梨音との休憩も被り、食堂の外で待ち合わせた。

 昼前から午後まで休憩になるが、昨日の客入り見る限り、俺らが戻るころには食材切れで閉鎖になる可能性が高い。

 だから実質、文化祭の終わりまでフリーみたいなものだろう。


 少し待っていると、制服姿の梨音がやって来た。


「ごめん、お待たせ」


「わざわざ着替えたのか」


「うん。だってチアの服で回るのはちょっと恥ずかしいしね」


 そう言って少し息を切らしながら笑った。


「そんなに急がなくてもいいのに」


「急ぐよ。修斗と一緒にいられるのなんて、久しぶりなんだから」


「家や登下校でも一緒じゃん」


「もうっ、そういうことじゃないのっ」


 ほら、行こうと梨音が手を出してきた。

 思わず身構えて考えてしまう。


(これは…………そういうことだよな?)


 一体いつ振りになるのだろうか。

 差し出された手を握り返し、梨音と手を繋ぎ横に並んで俺達は歩き出した。

 柔らかい感触が熱を帯びて俺へと伝わってくる。

 学校内で、他の人達がいる中で堂々と。

 俺達が幼馴染だというのはクラスの奴らも知っている周知の事実だ。


 だけどこれではまるで…………恋人じゃないか。


 梨音は気にしないのだろうか。

 クラスの奴らや知り合いに見られたら、なんて答えるつもりなのだろうか。


 横目で梨音と目が合った。

 お互いに小っ恥ずかしくなって目を逸らす。

 だけど手は離さない。繋がれたまま。

 ドキドキと鼓動が早くなる。

 俺の中で無くしかけていた感情が顔を覗かせているような気がする。

 いや、そもそもこんな感情を知ったことさえなかったのかもしれない。

 サッカーが全てだった俺にとって、これは不要な感情だった。


 俺はきっと──────。


「最初はどこに行く?」


「……えっ!? あ、ああそうだな、昨日、色々下見したんだ。お昼まではまだ少しあるし、クラスの出し物見に行こうぜ」


「うん、分かった」

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