文化祭初日⑤
「なんか嵐のような双子だったね」
「瞬間最大風速は凄かったな」
ただ真面目な話をしている時は真剣な表情だった。
プレー中もふざけた様子の印象が無いので、恐らく賢治と同じ真面目な場面ではちゃんと仕事をこなす職人タイプなんだろう。
その後、仲哀と金成と屋台でつまみ食いをしながら練り歩き、そろそろクラスに戻る時間だったので二人に別れを告げて俺は先に食堂に戻ることにした。
食堂に戻り、水本に話を聞いたところ、コスプレに釣られてか生徒も一般の人も結構来訪したらしく、食材の方が枯渇しそうなので店仕舞いも間も無くとのことだった。
それならいても仕方ないなと食堂を離れようとしたところ、中学生と思わしき女の子に声を掛けられた。
髪をサイドテールに流し、真面目そうな大人しそうな子だった。
「あの…………」
「もしかして食事? ごめん、もう食材が切らしてるみたいで」
「違うんです。その…………兄さんが……兄がここのクラスにいるみたいで……」
「お兄さん?」
ウチのクラスの誰かの妹か?
誰だろう。今ここにいるやつならいいんだけど。
「お兄さんの名前教えてもらってもいい?」
「佐川です。佐川新之助」
新之助かよぉおおおおお!!
えっ! じゃあこの子新之助の妹!? 似てな!! 全然可愛いな!
「さっきも来たんですけどいないみたいで、学校中探しても見当たらなくて……。連絡もしてるんですけど繋がらないんです」
ああ〜…………あいつ今着ぐるみ着てるもんなぁ……。
普通に探してたら見当たらないよなぁ……。
「ちょっと待ってね。今連絡してすぐに来させるから」
「そんな、兄のためにわざわざ申し訳ないですよ」
「大丈夫だって。俺、君のお兄さんとは結構仲良いから」
俺は直ぐに携帯で一緒にいるであろう八幡に電話を掛けた。
まだ着ぐるみを着ているなら新之助に電話をしても無駄だと思ったからだ。
電車を掛けると八幡が出たので、新之助に妹が来ている旨を伝えて欲しいと話したところ、電話の途中で新之助がすっ飛んで行ったらしい。
そういやあいつ、シスコン紛いなところあったもんなぁ。
「すぐ来るって」
「すいません。ありがとうございます」
と、妹さんが頭を下げた向こうで着ぐるみが猛ダッシュしながら食堂に入ってくるのが見えた。
シュールすぎるだろ。
「雫〜!! 来てくれたのかー!」
こもった声で新之助が叫んでいる。
着ぐるみ脱げよ。
「…………誰ですか」
「雫の兄さんだよ兄さん! おう修斗、連絡サンキューな」
「こんな着ぐるみ着た人知りません」
妹に指摘され、新之助が頭を外した。
秋とは思えないほど汗だくな新之助が中から出てきた。
「これでどうよ!」
「ああ、兄さんでしたか」
あれ……意外と塩対応だな。
新之助のこと探してたから、もっと喜ぶと思ったんだけど。
「わざわざ来てくれたんだな雫!」
「別に、兄さんがどうしても来て欲しいって言うから来ただけです。それにこの高校は私も来るかもしれませんから、学校の雰囲気を知るのにもちょうど良かったんです」
そう言って佐川妹は早口で捲し立てた。
「というか、兄さんが案内してくれるっていうからこの時間に来たんですよ。なんでいないんですか」
「ごめんごめん、クラスのために校内練り歩いてたんだよ」
クラスのためにっていうか半ば追い出されたような形だったけどな。
流石に妹の前でわざわざそんなこと言わないけど。
「はぁ……はぁ……! ちょっと新之助、早すぎ……!」
遅れて八幡がやって来た。
バスケ部の八幡ぶっち切るって、着ぐるみなのにどんだけ早く来たんだよ。
「あ、この子が新之助の……」
「そう! 俺の妹!」
「初めまして。佐川雫です」
「雫ちゃん? よろしくね。私、新之助と同じクラスの八幡冬華」
「高坂修斗だ」
「八幡さんに…………高坂さんだったんですね。二人とも兄さんがよく話題にしてます。いつもお世話になってます」
「わ、誰かと違ってとてもよく出来た妹さんね」
「どういう意味だ」
「ほんと。いつも世話してるわ」
「どういう意味だ」
きっと兄貴を反面教師にしてきたんだろうな。
しっかりしてる。
「じゃあ俺、妹連れて回ってくるからさ」
「おう」
「えっ…………それ着たままですか?」
妹に指摘され、新之助が自分の格好を改めて見直す。
頭だけ脱いだ状態のなんとも中途半端な格好だ。
一緒に歩きたくはない。
「確かに。脱いでけよそれ」
「修斗に服を脱ぐように強要された」
「服じゃねーよそれ。センス無いからやめとけ」
「そもそも誰も知らなかったじゃない、そのキャラ。いい加減脱いだら?」
俺と八幡に言われ、さらには妹からも懐疑的な目で見られ、新之助はいそいそと着ぐるみを脱いでいた。
正直あれだろ、脱ぐタイミング見失ってただろこいつ。