文化祭初日④
「高坂さん俺らのこと分かる!?」
「俺だよ俺! 俺俺!!」
俺俺詐欺みたいに言うな。
それに引っ掛かるほど歳取ってねぇよ。
「火ノ川兄弟だろ」
「ピンポンピンポン大正解ー!」
「へーい! ハイタッチへーい!」
音楽室で良かったと思えるぐらい騒がしい。
一人でも騒がしいのにこれが×2ときてるもんだから親は大変だろうな。
「俺が大空で」
「俺が利空」
身長は俺と同じぐらい。中3にしてはデカいほうだろう。生まれつきなのか二人ともかなり髪が茶色い。
二人の顔は一卵性双生児なので全く同じなのだが、利空の方が前髪をヘアピンで上げているので見分けがつく。
でも試合の時はヘアピンを外しているので、右サイドハーフと右サイドバックを務めている二人が全く同じ顔で場を掻き乱していたのを思い出す。
そのコンビネーションは双子ならではの意思疎通が垣間見えた。
「高坂君、知り合い?」
「知り合いというか…………サッカーやってたころの顔見知りというか……。なんでお前らはここにいるんだよ。関西圏住みだろ」
「決まってんじゃん! 怪我から復帰した高坂さんに兵庫から会いに来たんだよ!」
「ヴァリアブル世代の中心的存在だった高坂さんの、熊埜御堂さんとのキックターゲットの動画見てマジでリスペクトしに来たのよ」
それだけのためにわざわざ?
行動力ありすぎだろ。
「まぁそのなんだ、遠路はるばるわざわざご苦労」
「上から目線きちゃー!」
「連絡先交換しようよ! 高坂さんの連絡先欲しい!」
そう言って携帯を取り出す二人。
なんかあんまり関わってこなかった人種だな。
テンションが振り切った状態をずっとキープしている。
試合した時も二人で喋りまくってた記憶があるけど、普段からこんな感じだったのか。
俺も携帯を取り出し、二人と連絡先を交換した。
「アチいわマジで。ミッションコンプリートだな利空」
「ああ。もう思い残すことはないな俺達」
「死ぬ間際かよ」
「高坂さんはまたヴァリアブルに戻るの?」
「いや、ヴァリアブルには戻らないよ。ここの部活かそれ以外のユースのセレクション受けるか。まだ考えてるんだ」
それを聞いた二人は一瞬顔を見合わせた。
そして真剣な面持ちで俺を見る。
「これはマジな話で冗談でもなんでもないんだけど、俺達は高坂さんと戦ったあの頃からヴァリアブル世代の人達の大ファンなんだよ」
「中でも高坂さんが俺達の激推し。だからこれはマジな話で、俺達は高坂さんと一緒にサッカーしたいって思ってる」
それはつまり…………俺にテオダール神戸に来いって話か?
紗凪しかり熊埜御堂しかり、ユースの勧誘に来たってことなのか。
二人とは来年になればユースで同じになる。
それにテオダール神戸にはこの二人の他に徳川仁もいる。一つ下の世代では間違いなくテオダール神戸が優秀だろう。
だとしても、わざわざそのために兵庫に行くという選択肢はあり得ない。
優先順位としては下の下もいいところだ。
「悪いけど、テオダール神戸に行くつもりは……」
「違う違う。高坂さんが別のクラブチームに行く時は無理だけど、もし高坂さんがここの部活に入るつもりなら、俺達もここの高校受けて部活に入るよ」
………………は? マジで言ってんのこいつら。
「さすがに別のクラブに移籍するのはな。神戸に対する体裁もあるから無理だけど」
「いやいやいや、お前らならユース昇格は確定だろ? わざわざ部活に来るメリットなんて───」
「高坂さんとサッカーできる!」
「それ以上のアチいメリットなんていらないっしょ!」
うわ本物だ。
本物のガチファンだ。
俺とサッカーしたいがために約束された将来を捨てる気かよ。
さすがに俺でもそこまで大それた決断できないって。
「だから高坂さん、12月までにどこに所属するのか連絡ちょうだい。高校の出願時期がだいたいそれぐらいだから」
「もし他のクラブチームに行く時は、敵同士さ!」
「やめとけとも言えないけどさぁ…………。分かった。なるべく早く連絡するよ。でもお前ら東京なんて慣れないところに来れんの?」
「余裕余裕! だって俺達中学入る前までは東京にいたからね!」
「そうなの?」
あ、だから関西弁じゃないんだ。
なんでバリバリの標準語なんだろうとは思ったけど。
「それじゃあ東京遠征に来た目的も果たせたし……」
「まだまだ文化祭をエンジョイするぜぇ!」
そう言って二人は音楽室を飛び出して行った。
もし二人が本当にこの高校に来るんだとしたら、大石弟に火ノ川兄弟、即戦力の後輩が入ってくるわけだ。
今年の成績次第では部活も選択肢としては本当にアリだな。