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原点回帰①

 水本達とのボウリングを終え、近くのファミレスでご飯を食べてから俺達は解散した。

 家に帰る頃には20時を過ぎていた。

 残念ながら今日は自主練が出来そうにないな。

 ここまで暗くなってしまうと近くの公園では大した練習ができない。

 放課後に遊びに行くと、暗くなるのが早いこの時期以降は練習できなくなるのは考えものだな。


 家の食堂の方は絶賛営業中だったので、俺は裏から入った。


「ただいま〜……」


 小さな声で呟く。

 もちろん返答はない。

 繁おじさんや梨音のお母さんは仕事中だろうし、居間が電気ついていないから梨音も表か自分の部屋だろう。

 表から聞こえてくる喧騒をよそに、2階の自分の部屋へと行き、制服を脱いで着替えを持って1階の風呂に向かった。

 ガラリと脱衣所のドアを開けた瞬間、光が漏れたことに疑問を感じたが、一度動かした手が止まることなく、そのままドアを開けて固まった。


 ちょうど風呂から上がったところだったのか、着替えようとしている梨音と目が合った。

 前に着替えの途中で部屋に入ってしまった時は下着姿だった。

 だが今回はそれを上回る完全な裸体。

 梨音の傷のない綺麗な肌、しっとりと濡れた髪、運動部でもないのにくびれのある引き締まった体、そして女性としての成長がハッキリと分かる形の良い胸が俺の目に飛び込んできた。


 どうやら…………極刑は免れないだろう。


「……あ…………ああ……!」


「言い訳しません。足以外だったら全部差し出す所存」


「いいから早く閉めてよバカ!!!!」


 俺は勢いよくドアを閉めた。

 同じ家に住む以上、着替えを覗いてしまったあの時から、このような可能性を排除するためにノックするのが当たり前だったというのに、音がしなかったからまさか梨音が風呂に入っていた可能性を失念してしまった。


 ただ…………やはり少し不可解なことがある。

 前に梨音の下着姿を見た時はそりゃもうドキドキしていた。

 梨音のことを改めて女の子として意識したのもあの時だ。

 だというのに、今回このような騒動を起こしたというのに、俺の心の中にあるのは裸を見てしまったという申し訳なさでいっぱいだ。

 このドキドキは恥ずかしさから来るものじゃなくて、やらかしてしまったことから来るドキドキだ。


 そういえば、海水浴場に行ってみんなの水着姿を見た時も興味が薄れたような感情になった覚えがある。

 あの時は女の子に慣れてきたんじゃないかとも思ったが、今回のケースをかんがみるにどうやら違うらしい。


 もしかしてこれは、昔のサッカーにしか興味が無かった時の俺の──────。


「…………遺言は準備できた?」


「はい! 辞世の句まで考えました!」


 着替え終えた梨音がゆっくりとドアを開けて現れた。

 そのまま梨音に付いて行くようにして階段を上がって梨音の部屋へと連れられた。

 死刑台に上がるときの死刑囚の気持ちはこんな感じなのかね。


 ベッドに座ってぶすっとしている梨音の目の前に正座した。

 一度ならず、ニ度までも。

 そんな訴え出が梨音の目から読み取ることが出来た。


 ここで前回のように感想を言おうものなら間違いなく机の角でイカれる。

 俺は同じ失敗はしない男。


「あの…………梨音さん」


「………………」


「ほんとわざとじゃないんです。自分の部屋か食堂にいるのかと思い込んでまして」


「………………」


「つきましてはどんな処分も受けますので寛大なご処置を……」


「…………ふーん。何でもね」


 梨音がいきなり立ち上がったので少しビクついてしまった。

 だが梨音は机の上に置いてある物を手に取ると俺に差し出してきた。


「こ、これは…………?」


「私の髪、乾かして」


 ドライヤーだった。

 俺は虚を突かれながらもコンセントを差してベッドに座る梨音の髪にドライヤーを当てた。


 …………何だこれ。

 これが裸を見てしまった罰なのか。

 …………罰なのか? これ。


「えーっと…………梨音さん、ドライヤー加減はいかがでしょうか」


「うん、悪くない」


 しっとり濡れていた髪が徐々にサラサラとした触り心地の良いまとまりになる。

 チラリと梨音の表情を見ると、先ほどのようにぶすっとした表情ではなく、とてもリラックスしているような表情だった。


(うーん、仏の顔も三度までというし、次はさすがにないかもしれん)


 梨音の対応に疑問を抱きながら、俺は丁寧に梨音の髪を乾かした。

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