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出汁目的③

 その後、何度か投げるも全く慣れることはなく、1ゲーム目で一度もストライクもスペアも取ることはできなかった。

 こんなにも難しいものだったなんて。


「気にすんなよ高坂。初めてボーリングやったんだから」


「そうだよ。最初はみんな出来ないよ」


「…………つーか水本は何者なんだよ。なんでボウリングするのに穴空き手袋つけてんだよ」


 ほぼストライクとスペアで構成された水本のスコアは200点を越えていた。

 1人だけゲーム感覚じゃなくて試合感覚だ。

 ただの軽音楽部じゃないのかよお前。


「水本は……趣味を仕事にしたいタイプらしいから」


「穴空き手袋じゃない。これはリスタイというグローブさ」


「ドヤられても知らんけど」


「水本ガチすぎ。ウケる」


「もうひとゲームだけやるか」


「蹴っていいなら全球ストライク待ったなしなんだがな」


「足砕けるぞ」


 それは困る。

 せっかく治ってきたのにまた怪我するのだけは避けなければ。

 にしても、ボウリング自体は別につまらないわけじゃないんだが、どうしてもサッカーの練習したい意欲が出てきてしまう。

 クラスの奴らとの付き合いも悪くないが、練習時間が削られてしまうというのはデメリットでもあるか。


 …………いや、そもそも友人との付き合いをメリットデメリットで考えている時点でおかしいのか。

 ヴァリアブルにいた頃はサッカーに対してしか向き合っていなかったし、怪我をした後はサッカー以外のことにしか向き合っていなかった。

 こうして今、二つの選択肢を選ぶことができる状況になったとき、自分が何を優先したいのか考えなければならなくなったのは初めての経験だ。


 できればどちらも大事にしたい。


 両立させたい。


 高校生活もサッカー以外が楽しいものだと知ることができた今、サッカー以外も大切にしたい。


 だから今回の文化祭も…………思い出に残るものになればいいと思ってる。

 来年の今頃はきっとサッカーに重きを置いているはずだから、真剣に学校行事や遊びに割り切れるのは今だけだ。

 今だからできることを、今だからやれることを精一杯楽しもう。




 ──────────────────




ひかる、次はどうするぅ?」


「それならウチ来なよ。今日、両親どっちもいないからさ」


「え〜もう何するつもりぃ? 光のえっち」


「しないしない、何もしないよちょっとしか」


「ヤダ〜」


「ん? ………………あれって───」



 〜次の日〜



「昨日、修斗見かけたよ」


 東京ヴァリアブルが提携している高校、京成けいせい大学附属高校のクラスで、城ヶ崎、鷺宮さぎみや、神上、台徳丸だいとくまる狭間はざまが集まるなかで荒井光が口にした。

 それに一早く反応したのは鷺宮だった。


「どこで!?」


「食いつきすご。鷹山駅前のゲーセン前だよ。学校の友達かな? 男3の女3で遊んでたんだと思うけど」


「…………ふーん。まだサッカーに対する熱量が足りないのかしら……」


「かっ! 女遊びにうつつ抜かしとるんかアイツは。涼介に啖呵切った言うてたんに、大したことないやん」


 城ヶ崎が机に足を乗せながら行儀悪く呟いた。


「優夜、そんな自分が女子にモテないからってそういうこと言うの良くないよ」


「ドツき回したろかい!!」


「女にうつつを抜かしてると言うが、そうとも限らないぞ優夜。この前にみつぐから連絡が来たんだけど」


 神上が安達から聞いた話をした。

 それは高坂がヴァリアブルのジュニアユースのメンバーと一緒にミニゲームに参加に来たというものだった。

 安達の話では修斗の実力に陰りは見えなかったと神上は話した。


「じゃあ、少なくともミニゲームできるまでには走れるようになったってことだよね?」


「この前の熊埜御堂とのキックターゲット対決の動画のこともあるし、近いうちに修斗は必ず俺達の前に立つぞ」


「けっ」


流星りゅうせい的にはどうなの? 修斗が復帰するってなると、色々と思うところがあるんじゃない?」


 荒井が静かに話を聞いていた狭間に話を振った。

 高坂の影に隠れていた不遇の天才。

 最強のスーパーサブと言われてきた狭間にとって、高坂は目の上のたんこぶだったのかあるいは───。


「…………不確定なことに対して、無責任な発言はしたくない。俺は試合で活躍できればそれでいい」


「カッコつけちゃって。みんなの中で一番女子人気凄いのに、サッカー馬鹿のところは修斗と同じなんだから」


「修斗の話はそれぐらいにして、そんなことよりも神上、城ヶ崎、狭間は気にしないといけないことがあるじゃない」


「そうだな、鷺宮の言う通りだ。今度の試合、チャンスがあればどんどん仕掛けるぞ2人とも」


「言われんでも分かってるわ」


「ああ」


 鷺宮に話をまとめられたことで一同は解散し、練習に向かう準備を始めた。

 ただ1人、鷺宮だけは考えにふけっていた。


(実力に陰りがない? 1年以上もまともに練習も出来ていなかったのに? キックターゲットでは確かに化け物じみたプレーをしていたけど、じゃあ今の神上や城ヶ崎と試合で戦えるかと言われれば絶対にNOのはずよ。それなのに、サッカー以外のことで遊んでいるなんて…………もう少し手を打った方がいいのかしら。修斗をサッカーのことだけしか考えられないような沼に引きとす策を…………。…………あ、良い餌があるじゃない)


 鷺宮は不敵な笑みを浮かべ、教室を後にした。

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