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OB目線③

 それから合わせて3試合、ミニゲーム形式でチームを少し変えながら行った。

 意外だったのは赤坂コーチが義助にも指導していたことだ。

 体の当てに行き方、ボールをカットする時の状況やタイミング。個人の得意とするプレーをさらに伸ばそうとする指導は健在だった。

 ヴァリアブルの選手ではないというのに、面倒見の良いところは変わっていない。


 一方で俺は、怪我明けで初めての実践といった形だったが、思っていたよりも問題はなかった。

 ボールに対する基礎プレー、プレー中におけるアイディア、状況判断になまりはなかった。

 日頃からイメージしていた甲斐があったというものだ。

 ジュニアユース相手なら問題ないことが分かった。

 一つ不安材料を挙げるとするならば、スタミナの問題だろう。

 こればっかりは仕方がない。一度下がった心肺機能を元に戻すには日頃からの努力がものを言う。一朝一夕では身に付かない。


「ありがとうございました、赤坂コーチ」


「ああ。こいつらも良い刺激になっただろう。ユースの奴らは忙しいみたいだから滅多に来なくてな。高坂が来てくれて勉強になったはずだ」


「またどこかで」


「怪我には気をつけるんだぞ」


 その言葉に俺は少し微笑んだ。

 最後まで俺のことを見放さなかった赤坂コーチ。

 来年からユースに上がるというなら、いつかは戦うことになる。

 その時が楽しみだ。



 義助と一緒に大石さんの所へ戻った。

 既に時間は昼の12時半。

 朝から4時間近くここにいたことになる大石さんにも疲れがあるかと思っていたが、存外元気そうに俺達に手を振った。


「いやぁ高坂君は本当にサッカーが上手いんだねぇ。義助が熱を持つのも分かる気がするべ」


「そうなんだよ! 姉ちゃんもやっと分かってくれたかぁ! 高坂さんはヴァリアブルジュニアユースの全ての大会における三連覇の立役者なんだべ! 本来はオラなんかが話すことのできる人じゃねんだから!」


 3年目の大会で、俺は怪我で途中離脱したせいで三連覇には絡んでいないのだが、わざわざ訂正して義助の熱に水を挿す必要もないだろう。

 とりあえず愛想笑いをしておいた。


「今日はありがとなぁ。今度またお礼するすけ」


「いいですよそんなの。俺も懐かしい連中に会うことができた口実になるんで」


「こ、高坂さん!」


「ん?」


 義助が突然緊張したように姿勢を正した。

 なんだろう。

 告白でもされるのかな。

 男と付き合う趣味は持ち合わせていないんでお断りさせて頂こう。


「オラ…………俺! 高坂さんと同じ高校に行く予定なんです! 高坂さんと今日みたいにサッカーがしたいんです!」


「…………なるほど」


 ある意味告白に間違いはないか。

 義助の実力ならば、東京グレイブのユースに上がることができるのは間違いないだろう。

 わざわざそれを捨ててまで俺と同じ所に来るというのは、中三にしてはそれなりの覚悟がいる。

 それを決断できるのは大したメンタリティだ。


「一応聞くけど、それは俺を東京グレイブに誘っているってわけじゃないよな?」


「はい! いや、もちろんグレイブのユースに来てくれることになったら絶叫ものですけど、俺はただ高坂さんと同じところでやりたいんです!」


「なら俺もハッキリ言わせてもらうが、俺はまだどこに所属するか決めていない。瑞都高校に在籍しているのは間違いないが、高校の部活に入るのか、ユースにセレクションを受けて入るのか、その辺りはまだ不透明なんだ。そんな俺に合わせてお前は後悔しないのか? 今後の人生全てを左右することなんだぞ?」


「後悔しないっす! 俺、もう決めたんです!」


 俺はちらりと大石さんを見た。

 大石さんも話は聞いているみたいで、優しく頷いた。


 調べたところによるとAFC東京グレイブユースはプリンスリーグ関東1部。

 そして瑞都高校も今年は一つ下のプリンスリーグ関東2部で順位は好調らしく、来年は1部に上がれるかもしれないし、全国高校サッカー選手権大会でも勝ち進んでいるという話を聞いた。

 その成果の裏にはやはり狩野隼人の存在が大きいようだ。

 だからもし、俺が別のユースに入ることになったとしても、義助にとってはマイナスになることが少ないかもしれない。


 ちなみに東京ヴァリアブルユースはプレミアリーグEASTにいるため、さらに上のリーグになる。

 涼介達はそのレベルで戦っているのだ。


「…………分かった。ならこれ以上、俺が言うこともないだろう。もし同じチームメイトになった時はよろしくな」


「はい! お願いします!」


 俺と義助は固く握手をし、この日は解散となった。

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