OB目線①
義助を連れてグラウンドに戻ると、既にヴァリアブル側でコートを作ってくれていた。
コーンマーカーを四隅に置き、ゴールを模して同じように二つずつ置かれている。
簡易的なコートになるが、練習の際はこのようにして練習していたのを思い出す。
少し懐かしい気持ちになった。
「あっ! お前が修斗さんの知り合いだったのかよ! 試合ではよくもベタ張りしてくれたな」
義助を見た翔平がすぐに絡んできた。
「おっ、トップ下の8番。いんやー抑えるのに大変でしたよ!」
「良い笑顔で言いやがって……! 今からリベンジしてやるから首洗って待ってやがれ!」
「翔平が珍しく熱くなってる」
「つーか翔平参加する気満々かよ。試合出てないやつ優先だろ」
「3年で試合出てなかったのは5人じゃん。3人は出るんだから当然俺が出る」
「ジャンケンに決まってるだろジャンケン!」
試合に出ていたメンバーが集まって誰が出るかジャンケンで決めていた。
ジャンケンをする前に両腕を絡めて拳を顔の前で作り、未来を見るとか言ってるやつもいる。
世代問わないあのポーズなんなんだろうな。
気合い入るんだろうな。
「ジャーンケーンポン!」
「うああああ負けたああ!!」
「未来見えたんじゃないのかよ!」
「弱すぎ!」
「まぁまぁ、何も1本だけというわけじゃないんだ。交代交代でやればいいじゃないか。構わないだろ? 高坂」
「ええ。10分を3本ぐらいできれば」
1時間という枠を考えたらそれぐらいが妥当だろう。
結局、最初に出場する選手は以下のメンバーになった。
① 平山 夏
② 大森 篤紀
③ 香木 優太
④ 長内 健太
⑤ 藤島 忠姫
⑥ 堂島 緋月
⑦ 玉田 翔平
⑧ 安達 貢
ルールは基本的にキーパー不在でゴールを通す時は浮き玉禁止。要はゴロでマーカーの間を通さなければならないということだ。
コートの広さはフットサルと似ているものの、GK不在とゴロでのシュートのみ。ミニゲームのセオリールールは大体どこもこんなもんだろう。
「高坂、ただ普通にミニゲームするのもいいが、〝縛り〟を設けてみないか?」
「タッチ数とかですか?」
「察しがいいな」
ミニゲームの最初何戦かはタッチ数を決められてやっていたのを思い出す。
涼介達とよくやったもんだ。
すぐにみんなでサポートにいかないといけないから大変なんだよな。
「そりゃ散々やってましたからね。いいですね、そうしましょう」
「よし。全員聞いてくれ、高坂選手はワンタッチ以内の制限でやってくれるそうだ」
「俺だけかよ!!」
全員のタッチ数縛るって話じゃなかったのか!?
しかもワンタッチて!
「マジっすか!」
「いくら修斗さんでもワンタッチなら怖くないな!」
「……ちょっと赤坂コーチ。俺まだ復帰したばっかりなんですけど」
「ははは。それでもお前ならなんとか出来るだろ。むしろ、それぐらいのハンデを付けてやらないと、相手にならないことを俺は知ってるからな」
「まったく…………最初だけですよ」
「ああ。2戦目からはルールを変えよう」
何故か俺だけワンタッチ縛りが課せられてしまった。
ワンタッチ以内とは結局、ダイレクトで全てのボールをハタかなればならない。
それはつまり仲間の位置、敵の位置を即座に認識して正確にボールを出さなければならない。
俊敏な判断が求められるということだ。
(まぁ、全員ダイレクトとかじゃなくて良かったか)
軽い気持ちで義助と練習する予定が、いつの間にかヴァリアブルの練習に付き合わされてるみたいになってしまっている。
さては赤坂コーチ、これを狙ってたな。
チーム分けは義助と俺がセットになるので、ヴァリアブルの選手が3人こっちにやってくる。
どうやら平山夏と大森篤紀、堂島緋月がこっちのチームに参加するみたいだ。
「修斗さん、よろしくお願いします!」
「お久しぶりです」
「ひらやん、アツ、緋月、よろしくな。こっちは東京グレイブの大石義助」
「みなさんよろしくおなしゃす!!」
義助が元気よく頭を下げた。
それに合わせて3人も軽く会釈する。
「俺はワンタッチしか触れないから壁役だとでも思ってくれ。あとはそうだな…………3人は分かってるかもしれないが、俺は触れないパスは出さないし、レベルを落とすつもりもない。来年、優夜や涼介達と並んで戦いたいのなら…………しっかりと俺について来い」
「「「はい!!!」」」
3人が力強く返事をした。
それに少し気圧されたのか、義助がポケーッと不思議な表情をしていた。
「どうした義助」
「いんやぁ、高坂さんはオラと話してた時は結構物腰柔らかそうな感じだったのに、ヴァリアブルの人達の前だと結構変わるんだべなと思って」
そうか…………? そうかな。
あんまり意識したことはないけど、この3人はジュニアユース時代に一緒に練習してるし、翔平や安達は小学生の頃から知っている。
だから遠慮なく求めたいものを求めることが出来るのかもしれない。
ヴァリアブルから離れたというのに、まだ先輩としての自覚が残ってるのかな。
「高坂さん、オラにもその当たり方でいいすけ、もっと指導してください!」
「…………分かった。気になったことは言うようにするよ」
「お願いします!」