田舎出身⑧
「翔平も、ずっとマーク付かれていたけどどうだった?」
「どうだったもクソもないですよ」
俺が聞くとすぐに翔平は不満を露わにした。
「あのイガグリ、俺のこと延々とストーカーしてくるんですよ。おかげで見せ場なんて一つも無かった」
翔平は試合中に徹底したマンマークにつかれていた。自陣に下がろうが縦に抜け出そうとしようが、徹底してだ。
離れられた時といえばサイドに広がり切ったときか、相手の最終ラインに入り込んだ時だけ。
それでもマークの入れ替えをしているだけで別の選手がマークに張り付いていたことには変わらない。
終始フラストレーションが溜まっていたことだろう。
「一度受けた後にそいつをかわせる個人技があればな」
「うっ…………それを言われたらなんも言えないですけど……」
もしくはワンツーを使った連携とか。
張り付いたマークを外す方法はいくつかある。
「そうだ赤坂コーチ。一つお願いがあるのですが」
「どうした?」
「この後、その翔平を苦しめた選手と練習に付き合う約束をしているんですけどミニゲームをやりたいなと思って、何人か選手を借りられないですか?」
試合を見ていて思い付いたことだ。
2人でやれることというのも少ない、なのであれば他にも数を増やせば5対5のミニゲームぐらいはできるのでないかと。
グレイブの選手でもいいんだけど、どうせなら知ってる奴が多いヴァリアブルにお願いしようと思った。
「高坂が練習するのか? おおもちろんいいぞ! 何人ぐらいだ?」
「8人いればまぁ……」
「聞いたかお前ら。あの高坂選手と一緒に練習したい奴、手を挙げろ」
「「「はいはいはい!!」」」
ほぼ全員が手を挙げてビックリした。
試合後で疲れてる奴もいるだろうに。
「見ての通りより取りみどりだぞ」
「こんなにはいらない……」
多くても逆に困る。
「俺達みんな修斗さんの代を尊敬してるんですよ。相手を圧倒する個人技、連携、チーム戦術、あの頃のヴァリアブルは間違いなく伝説でした」
「その伝説の主軸を担ってた修斗さんと練習ができるんです。そりゃみんな手を挙げますよ」
「それはまぁ……嬉しいけども」
「高坂、後輩のこいつらにお前から指導してやってくれ」
俺が涼介達と決別したことを赤坂コーチとこいつらは知らない。
おそらく来年以降は赤坂コーチもユースに上がると言っていたし、このうちの何人かが敵になるだろう。
俺が彼らに何かをしてあげれるのは、今回が最後なのかもしれない。
「……分かった。俺がお前らに先輩風ビュンビュンに吹かせてやるよ」
「やった!」
「1時間ぐらいならこのコートを使っても問題無いと思うぞ。この後は使われないだろうし、俺から管理者に話をしておくよ」
「ありがとうございます」
結局参加するのは3年生のみということになった。
それでも全員だと人数が多いので試合に出てなかった奴がメインになる。
俺は一度大石さんのところに戻り、ここで練習させてもらえることを伝えた。
「特別待遇だねぇ。義助の方も終わったみたいだすけ、すぐにこっちさ来ると思うよ」
大石さんの言った通り、すぐに大石弟が走ってやってきた。
「すんません! 負けちゃいました!」
「いや、良い試合だったよ。大石弟はちゃんと自分の仕事が出来てたじゃないか」
「いんやぁーまだまだですよ。というかオラ……じゃない俺のことは義助って呼んでください! 姉ちゃんと呼び分けってことで!」
「じゃあそうするよ。とりあえずこの後の練習のことだけど」
「はい!」
「ヴァリアブルの奴らと一緒に5対5のミニゲームをやろうと思うんだ。俺と義助は同じチームでね」
「どっひぇー!? マジっすか!?」
義助が大袈裟に驚いた。
ちょくちょく思ってたけど芸人並みにリアクション大きいな。
「1時間ぐらいしか枠が無いみたいだけど、それでいいかい?」
「もちろんだべ! しかも同じチームでやれるなんて夢みたいっす!」
なんか今日一日で年下からの評価が自分の思っていたよりも高かかったことを教えられた気がするな。
あのヴァリアブルの一時代を築いたのは俺1人だけじゃないんだが。
例えば俺が今のヴァリアブルジュニアユースにいたとして、3年間全ての大会で優勝できるかと言われれば、難しいところがあるだろう。
今日の翔平のように1枚、もしくは2枚のマークをつけられて動きを封じられるかもしれない。
相手の実力が上がれば上がるほど、個人の力では及ばない領域が出てくる。
大前提としてサッカーは、集団競技なのだから。