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感情理解①

 正面玄関口で新之助達に合流した。

 梨音もいたが、あからさまに話しかけるなオーラが出ていた。


「何だ修斗、早かったな」


「いやちょっとな……」


「それよりもお前、若元と何かあった?」


「やっぱ分かる?」


「分からないように上手く取り繕ってるし、実際、八幡やニノは気付いてないかもしれんけど、俺の目は誤魔化されんよ。若元の言葉の端々にトゲを感じる」


 お前何者だよ。

 よくそんな敏感に感じ取れるな。


「何でそんなに人の気持ちが分かるのに、デビューはあのざまになってしまったんだ」


「まだイジるか」


「恥ずかしながらあと3年は」


「卒業までじゃねぇか。こっちがはずかしめを受けるわ」


「とりあえず、梨音の方は俺の問題だから気にしなくていいぞ」


「そうかぁ?」


 結局、何が理由で梨音が怒っているのか分からない上に、こんなことで他の人に迷惑をかける必要はない。

 それは梨音も分かっているはずだから、八幡にも機嫌が悪いことをバレないように接しているんだろう。

 マックで何とか梨音と話す機会を設けて、早いとこ仲直りせねば。

 さすがに家まで持ち越すとしんどくなってくるからな。



 ─────────


 ──────


 ───




 家まで持ち越したわ。

 全然話す機会くれなかったんだけど。

 なんだよ、席が3、2で別れるって。

 4人がけの席しかないなんて聞いてないぞ。

 梨音も意図的に俺を避けてたし、せっかくの初マックがほとんど味しなかったんだが。


 家に帰る途中も口を聞いてくれないし、ホントに何で怒ってるのか意味わからん。


 あーなんか腹立ってきた。


 そもそも何で俺がこんなに気を遣わなきゃならないんだ。

 勝手に怒ってるのは梨音じゃないか。


 まったく、サッカーのリカバリーと違って何でこっちはこんなにも難しいんだ。




「ごちそうさま」


 梨音は夜ご飯を食べ終えるとすぐさま自分の部屋へと向かっていってしまった。

 相変わらず取り付く島もない。


「お、どうした修斗。梨音と喧嘩でもしてるのか?」


 珍しく一緒にご飯を食べていた繁オジさんが聞いてきた。

 やはり分かる人には分かるらしい。


「ええ、まぁ」


「あいつも気難しい年頃だからなぁ。いくら相手が修斗といっても男の子との同居生活に緊張しているんじゃないか?」


「あいつに限ってそれはないですよ。俺が来た時のあいつの格好思い出してくださいよ」


「ああ、ほぼ寝巻きだったな」


 そんな格好してる奴が緊張なんてしてるわけがない。


「まーでもなんだ、昔から俺と母さんは店が忙しくて梨音にあまり構ってやることができなかったからな、修斗がいてくれて助かってるんだよ」


「そーねぇ。修斗くんがサッカー始めてからもウチに良く来てくれてたじゃない? 梨音、結構喜んでたのよねぇ」


 梨音のお母さんも食器を洗いながら話した。


「俺もサッカー終わりにご飯食べさせてもらえたりして助かりました」


「修介のやつは銀行員だからな。今回の引っ越しも出向の関係だって言ってたな。昔から勉強が良くできるやつだった」


 そこから繁オジさんの昔話が始まった。

 お酒が入ると毎回始まるのだが、意外と昔話のネタが多く、同じ話で飽き飽きしてくるということは少ない。

 だいたいは俺の親父との話だ。

 そして毎回、最後は梨音のお母さんに良い加減にしなさいと頭を叩かれてお開きとなる。


「とにかくだ修斗〜、梨音みたいな無愛想な奴の面倒を見れるのは、お前しかいない! てなもんよ〜」


「飲み過ぎですよあなた。そんなに強いわけでもないのに好きだから困るのよね」


「喧嘩なんていくらでもすべきだ! 俺と母さんだって散々してきたからな! 毎回俺が謝ってるけど……」


 せ、切ない……!


「とりあえず男から謝っておけば基本的に円満! 理由が分からなくても謝っておけば結婚生活は上手くいくんだよ! なぁ母さん?」


「そんな短絡的なアドバイスを修斗くんに与えないでください。自分が悪くなかったら謝る必要はないのよ。この人の場合は自分に非がある場合がほとんどだから自分から謝ってるけど…………梨音と大喧嘩したわけじゃないんでしょ?」


「俺は別に怒らせるようなことをしたとは思ってないんですけど、何故か梨音は怒ってて……」


「それならあの子も本気で怒ってるわけじゃないと思うわ。きっと意地になっちゃって、修斗くんを避けてるだけだと思うの。嫌いにならないであげて」


 嫌いに、か……。


 はは。

 今さらこの程度で腹を立てるのもしょうもない話だよな。

 早く行動を移そうとばかり考えて、結論付けるのも急ぎすぎてたみたいだ。


 何事も早くケリを付けたからといって、それが最善であるとは限らない。

 こんなことも分からなかったなんて、今まで本当に俺はサッカーのことしか頭になかったんだな。

 もう少し落ち着いて物事を見る必要があるのかもしれない。


「嫌いになるわけないですよ。アイツは俺にとって、唯一の幼馴染なんですから」




 一晩中考えた俺は次の日の放課後、梨音に避けられる前に梨音の席へと行った。

 家では部屋に篭り切って出てこないので、絶対に避けられない学校で話すことにした。


「梨音」


「…………なに?」


 相変わらず機嫌は悪い。

 だけど、昨日ほどのトゲトゲしさは感じられなかった。

 1日経ったことで少し落ち着いたのだろう。


「この後、少しいいか?」


「先生に呼ばれてるから」


「待てよ」


 そう言って歩き出した梨音の肩を掴んで引き止めた。


「ちょっ……!」


「大事な、話だから」


 真剣に、梨音の目を見て告げた。

 これだけ近い距離で梨音の顔をしっかり見たのは初めてかもしれない。

 美人だ何だと周りが持て囃していた理由が、今なら分かるな。


「っ……!? わ、分かったから。話聞くから、離れてよ」


「ああ、悪い」


「先生に呼ばれてるのはホントだから……その後でいい?」


「もちろん。運動場の入り口のところで待ってるから」


「うん」


 なんとか約束を取り付けさせ、梨音は職員室へと向かっていった。


「さて……先に桜川が待っているはずだ」


 俺も一足先に運動場へと向かった。

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