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夏休み⑤

 生徒会室に戻り、神奈月先輩にお釣りを返して買ってきたケーキを堪能し、特段することもなく今日の俺達の生徒会活動は終了した。

 夕方、梨音と一緒に家に帰る途中、自転車に乗ったもっちーさんとバッタリ出会った。

 どうやら丁度アルバイトに向かってる所だったようだ。


「おお、梨音さんに修斗さんじゃないっすか。今帰りっすか?」


 もっちーさんは俺達に気付くと自転車から降り、俺達に合わせて歩き始めた。


「もっちーさん。これからウチにバイトですか?」


「そうなんすよ。大学もさっき終わったんでそのまま来たんす。梨音さん達も部活とかっすか」


「私達は生徒会の仕事で遅れたんです」


「ええ!? お二人とも生徒会に入ってるんすか? どひぇー」


 もっちーさんが大袈裟に驚いた。


「そんな驚かれるようなことじゃないですよ」


「いやいや、生徒会と言えば学校のカースト上位者じゃないっすか。内申にも響くし。お二人とも優秀なんすねぇー」


 別にカースト上位ではないだろ……。

 実際は教員と生徒の橋渡し的なもので、活動内容も地味な裏方活動ばっかりだしな。


「そういえば高校は間も無く夏休みなんじゃないっすか? どこか遊びに行ったり?」


「今週いっぱいで学校は終わりですね。来週にはさっそく海に行こうって話をしてるんですよ」


 梨音が楽しそうに話した。


「海、いいっすね〜。お二人で行くんすか?」


「ち、ちち違いますよ! 他に友達もいますから!」


「こいつは失礼しました。電車とかで行くんすかね? 夏休みだと混んでそうっすね〜」


「車か電車か迷ってるんですよね。最初は送ってくれる方がいたんですけど、思いのほか人数が多くなっちゃって一台の車じゃ乗り切らなくなっちゃったんです。だから電車にしようかなって……」


「良かったら車出しましょうか?」


 さらりと、思わずお願いしますと言いそうになるほどスムーズにもっちーさんが提案してきた。


「い、いやいやいや! 流石にそれは悪いですよ! そんなもっちーさんからしたら面識の無い人達ばかりなのに運転手みたいなことさせるなんて」


 梨音が慌てて遠慮する。


「いやぁ大学入る直前に合宿で免許取ったはいいんすけど、中々遠出する機会が無くて、このままじゃ免許にカビ生えちゃうとこなんすよね。だから運転訓練も兼ねてって感じなんすけど」


「いや……でも…………」


 梨音が困った表情をしながらチラリと俺の方を見てくる。

 この顔はもっちーさんが来ることに困惑しているのではなく、シンプルに申し訳無さがまさっているときの顔だ。

 もっちーさんが送ってくれるのであれば、2台に分けて乗ることができるので、俺達に取っては願ったり叶ったりだが…………。


「そういえばもっちーさん大学はいつから休みなんですか?」


「8月の頭からっすね。高校よりかは少し遅いんすよ」


 俺達が海に行くのは来週の8月に入ってから。

 そこは問題ないか。


「そしたら俺達に何かしてほしいこととかってありますか? 流石に無償で運転手をお願いするのは気が引けるので……」


 俺達ごときが大学生であるもっちーさんの手助けなんてできるものは無いのかもしれないが、ただ優しさに甘えるよりかはよっぽど梨音も納得できるだろう。


「してほしいことっすか? うーん特段ないんすけどね〜………………あっ」


 もっちーさんは何かを思い出したかのように携帯を取り出して何かを調べ始めた。

 そして、一つのウェブサイトを俺達に提示した。


「実は、修斗さんがサッカー得意だっていうことを店長や梨花さんから聞いてまして…………もし良かったらこれを修斗さんに出場してもらって優勝してもらいたいというか……」


 もっちーさんが見せてくれたサイトのタイトルには『集え! 学生キックターゲット大会!!』と書かれていた。


 詳細を見ると、学生を対象としたミニゲームのようなもので、数字が書かれた的をボールを蹴って打ち抜くものらしい。

 ただ、条件にはクラブチーム経験者、もしくは過去に大会で優勝等の実績ある方のみと書かれていた。


「これの優勝賞金が3万円なんすけど、ぶっちゃけそれはどうでも良くて、副賞が新作サッカーゲームの試作品を貰えるってものなんすよねぇ……。そこの開発会社がスポンサーやってるみたいで」


 えへえへとだらしなく笑うもっちーさん。

 ゲーム目当てで歳下の高校生にお願いをしているということに少し恥ずかしさがあるらしい。

 ゲーム好きだというのは聞いていたけど、サッカーのゲームとかもやるんだこの人。

 参加申し込みが7月31日まで。開催が8月中旬か。


「修斗」


 梨音に言われて俺も頷く。

 答えは決まっている。二つ返事だ。


「もちろんいいですよ」


「ま、マジっすか? ありがとうございます〜」


「ただ優勝できるかどうかまでは保証出来ないですよ」


「いやいやもちろん全然っすよ! いやぁなんかすいませんゲームオタク女で……」


「良いじゃないですか趣味に夢中になることは。恥ずかしいことじゃないですよ」


「そ、そうっすかねぇー…………」


 もっちーさんが恥ずかしそうに頬をかいた。


 曜日の日取り等はまだ決まっていないことなど話している内に家へと着き、俺達は裏口の方へと回った。


「じゃあまた日時とかは連絡しますので」


「よろしくっすね〜」


 そこでもっちーさんとは別れた。

 俺達は家へと入り、お互いに目を見合わせて笑った。


「もっちーさん、良い人だね」


「逆の立場なら普通自分から言わねーな」


「でもごめんね修斗、全部任せるようになっちゃって」


「いや、むしろ面白そうじゃないか? キックターゲット。本音を言うと俺、少し楽しみにしてんだ」


「あはは。修斗も本当、サッカー好きだよね」


「まぁな」

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