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不意強襲②

 山田が反射的にスルーパスを出した。

 完全に相手の虚を突いたスタート。

 それでも反応した相手が一人寄せてきた。


(問題ない)


 寄せてくるスピードよりも俺がクロスを上げるタイミングの方が速い。

 中を一瞬確認すると、一際目立つ電波塔が俺と同じタイミングで走り出していたのが見えた。

 俺の思考レベルに合わせた走り出し、流石と言うほかない。


「高坂、中にれぇ!」


「頼んだぜ紗凪!」


 ボールをチップキックのように掬い上げつつ、巻くように回転を掛けた。

 球速はほとんどいらない。

 高さを求めたボールを出せば、紗凪なら確実に沈めてくれる。

 そんな信頼感が今のアイツにはあった。


「ドンピシャァ!」


 まるでマークなんかされていないかのように、ジャンプと同時にギリギリと身体をしならせ、ボールとのインパクトの瞬間に頭を叩きつけた。

 柔らかいクロスからは考えられないほどのヘディングシュートが繰り出され、キーパーが広げた腕の下をすり抜け、ゴールへと突き刺さった。


 2ー1、勝ち越しだ。


「よっしゃあ!! さすが新旧日本代表コンビ!!」


「だっはっは! これぞ俺の真骨頂よ!」


「いやほんと、良く走ってくれたよ」


「お前が考えてることなんてお見通しじゃあ!」


「敵の発言かな」


 一発のチャンスをきっちりとモノにしてくれるFW。

 これほど頼りになる存在はいない。

 今のシュートからも分かるように、高さのある競り合いをきっちりと沈めてくれるストライカーは貴重だ。

 一つのオプションとしても監督的には戦術の幅が広がるだろう。

 あの時、なんとなく紗凪に言ったアドバイスは無駄ではなかったらしい。

 負けた直後に敵から言われたアドバイスを実直に実行できるなんて、こいつも大したもんだよ。


「これで終わりじゃないぞ! 切り替えて守り守り!」


 すぐにリスタートされ、相手がドリブルで軽く俺達の陣へと押し上げてくる。

 残り2分弱。

 パス回しから簡単にシュートを放たれるもキーパー正面、橋本がしっかりとキャッチし山田弟にパスする。

 さっきのような奇襲は既に警戒され、俺にはしっかりとマークが付いていた。

 そもそも俺にはさっきのような無茶な短距離ダッシュはもうできないわけだけど、それを知らない相手は俺に一枚数を割いているわけで。


 紗凪が前線に背面走りで上がる。

 敵ももちろんマークするが、一人で対応できるわけもなく、山田弟の浮き玉パスをあっさりと胸トラップでキープした。

 そしてゴールエリア内。

 身体を入れ込みながらの紗凪の強引な反転シュートは枠内に行ったものの、キーパーが弾き、タッチラインを割っていった。


 右からのコーナーキックにボールをセットしたのは俺。

 左足で狙うは一箇所だった。

 巻くようにクロスを上げ、ボールは打点の高い紗凪の頭へ。


「はっはー!」


 またしても紗凪のヘッドがゴールネットを揺らした。

 まるで小学生を相手にしているかのような高校生のあまりにも簡単なプレーに、相手の人達は半笑いにならざるを得ないみたいだった。


「ラストワンプレー!」


 リスタートと同時にタイムキーパーが叫んだ。

 ボールがタッチラインを割るなどしてプレーが切れれば試合終了。つまり、実質的に俺達の勝利は確定した。

 それでももちろん相手がプレーを諦めるということはなく、俺達もまた、最後まで集中してゴールを守り抜いた。

 橋本が相手のシュートを弾き、ボールが外に出たことにより試合は終了となった。

 結果は3ー1。全ての試合で勝利することができた。


「しゃあああ全勝だあああ!!」


「だっはっは! 良い練習にはなったな」


「こんなチームのキーパーならいくらでもやるよ」


「ふぅ…………堪能した」


 山田弟が何を堪能したのかは知らんが、現役世代別日本代表がチームにいて負けるようなことにならなくて良かった。

 それに、いくつか個人的に収穫できたものもあるしな。



 ────────────



「───優勝はFチーム!」


 参加者達の拍手を受けながらチームをかき集めたキャプテン山田が優勝賞品を受け取った。


「中身はなんと高級焼肉店苑苑叙(えんえんじょ)の食事券3万円分!!」


「おおおおスゲー!!」


 一人頭2千円で参加したから1万円分だろ?

 だから実質3倍になって帰ってきたのか! 確かにスゲーな!


「準優勝のチームは───」


 2位まで賞品を受け取り、フットサル大会はお開きとなった。


「おいおいどうするよこのまま打ち上げ行っちまうか?」


「悪いが俺はこの後練習だ。山田弟もだろ」


「はい」


「ちっ、じゃあ焼肉はまた今度全員集まった時だな」


「俺は空いてるぞ」


「バッキャローてめー高坂、お前にはファンクラブの奴らがいるだろーが! 男子校の俺に当てつけるように連れてきたくせによぉ!」


「別に俺が連れてきてねーよ。お前と橋本も一緒に女子含めてお疲れ様会やればいいじゃん」


「あー! こいつ、全然分かってねぇ! その中に混ざるほど俺達は空気読めねぇ奴らじゃねーよ! なぁ橋本!」


「そーだそーだ」


「なんだよ……」


「とにかく俺は橋本と飯食って帰るから、お前はちゃんと最後まで面倒見ろよな」


「分かった分かった」


 勝手にとはいえ、アイツらを無視して帰るわけにいかないのは確かだ。

 紗凪も山田達もそれぞれ現地解散と言っているのだからそれに従うほかないだろう。


「じゃあな高坂。もしもお前にその気があるなら俺に連絡しろ。監督には口添えしてやる」


「今は気持ちだけ貰っとくよ」


「だっはっは! 俺は本気なんだがなぁ!」


 そう言って紗凪はフットサルコートを後にした。

 アイツ、着替えずにそのまま帰るのかな?

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