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不意強襲①

【高坂目線】



 ズキッ。


 右膝に少しピリッとした痛みが走った。

 テーピングで固めてるとはいえ、ここまで1時間半近くフットサルを続けている代償がきたか。

 守備の時はだいぶサボらせてもらっていたけど、今のヒールリフトで膝にとどめをさしたのかもしれない。

 だとしたら今のシュートを決めきれなかったのはもったいなかった。


 相手はベンチの人と交代をしていた。

 時間的にはあと5分。

 それぐらいなら大丈夫だと思うけど、さっきみたいなドリブルはもう出来ないかもしれないな。


「となると…………」


 パスの選択肢しか俺には無くなっているが、相手のようにパス&ゴーは難しい。

 俺が実行可能で考え得る戦い方じゃ、あの人達相手に優勢には回れない。

 ここは経験者の意見を参考にすべきだ。


「山田」


「おん?」


「このままじゃダメだ。攻め方を変えたいんだけど何か良いアイディアはないか?」


「そうだな…………さっきの敵の攻撃は見てたろ? 全員がポジション関係無く流動的に動いてディフェンスを崩すやり方。あれが本来のフットサルだな」


「だけどアレはコンビネーションがシビアなものじゃないか? 俺達であそこまでパスを回せるかどうかは───」


「高坂ならできるだろ?」


 さも当然と言った顔。

 あっさり言ってくれるなこいつ。


「やってみないことには分からんけど……」


「俺達なら問題ないぜ。なにせ、血の繋がった兄弟と小学校からの馴染みだからな。そこらの奴らよりもよっぽど意思の疎通はできる」


「じゃあ…………ポジションは無くし、パス&ゴーのやり方でいくんだな?」


「俺達はな。高坂は中央でくさびのやり方を頼む」


「何でだよ。俺ならできるって言っ───」


「膝」


 山田が俺の右膝を指差した。

 右足に体重を乗せずに立っていることに気が付いていたのか。


「結構限界来てんだろ? 無理すんなよ」


「……目ざといな」


「無理をするような大会じゃないんだぞ。ほとんど遊びみたいなもんなんだからよ、怪我が悪化したら誘ったこっちの目覚めが悪くなるっての。それに、天下の高坂修斗なら走らなくても俺達の動きに付いて来れるだろ?」


「無茶言うなぁ」


 山田の頼みも段々遠慮のなくなってきたものになった。

 それだけ信用してもらっている証拠ではあるんだが。


「じゃあそれでやるか」


「作戦名は全特攻で」


「そのまんまかよ」


 相手ボールでキックオフ。

 再び少ないタッチ数でパスを繋いでいき、俺達のエリアへと迫ってくる。

 ゾーンディフェンスの中で流動的に動くボールに対して、こちらもマークの貼り替えを迅速に行なっていく。

 横に出されるパスは仕方ない。

 俺達が狙うべきは──────。


「カット!」


 縦に鋭く出されたパスに山田が反応してパスカットした。

 すぐさま紗凪と山田弟が駆け上がる。

 しかし、山田が俺にパスを預けた瞬間には敵も素早く二人のマークに付いていた。

 戻りも速い。


「山田」


 山田に一度パスを戻す。

 紗凪と山田弟がパスの受けれる位置に戻ってきた。

 そして簡単にボールをハタいて相手と同じように動き回りながらパスを交換しあう。

 3人は流石の連携力だった。

 俺を介さずともお互いの意思の疎通が取れていた。

 その中で、どうしてもパスの受け手がいない時には俺が顔を覗かせてボールを受け、キープ、もしくはダイレクトでボールを散らして配球する。


「レベル高……!」


 相手の誰かが零した言葉に自分のことながら俺も同感した。

 紗凪は当然だとしても、山田や弟もミスらしいミスをほとんどしない。

 ここまで2分近く相手に取られることなくパスを細かく回し続けている。

 言い換えればそれだけ相手のマークが厳しくて縦に抜け出せるパスを出せていないということになるが、守りは攻めよりも疲れる。

 ここまで流動的にボールを回し続ければ、相手には休む暇を与えず、恐らくここまで全試合で走り回ってきたであろう彼らは少なからず疲労の影響が出るはずだ。


 その一瞬を狙う。


 自然とボールが左へ寄り始めたので俺が右へ少しづつ展開する。

 俺の正面、つまり右サイドが完全に空いている。

 要因としては2つ。

 パスを回され続けていることでフラストレーションが溜まっている敵がボールに対して少し前がかりになってきているから。

 そしてもう一つは、俺が走れないということを相手が完全に理解している。

 この試合、技で相手をかわすドリブルは見せても、スピードで裏取りやドリブルは見せていない。

 現に今も俺はここまでのパス回しでも歩いて受けている。

 その結果から見て相手は俺が走れないのだろうと思い込んでいるわけだ。


 意図して生まれたわけじゃないが隙ができた。

 山田はああ言っていたが、ここで走らない選択肢がフットボールプレイヤーにあると思うか?


「山田!!」


 センターライン中央にいた山田にボールが渡った瞬間、俺は前へ駆け出した。

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