大城国紗凪①
【大城国目線】
「悪い、今のは俺が上がりすぎたせいだ。高坂のカバーに間に合わなかった」
「攻めた結果だから仕方ない。修正しよう、敵は即時カウンター狙いだ」
あっさりと点を入れられたにも関わらず、高坂は毅然としていた。
まるで1点や2点は入れられることが織り込み済みだったとでも言いたげだ。
「桐谷のあの足の速さは結構脅威だぞ。誰が対応するんだ?」
「脅威と言っても速さで言えば、恐らく怪我をする前の俺と同じぐらいだろう。山田なら止められるだろ」
「50mどれぐらいよ」
「6秒4」
「はえーよ!」
「いやでも、ヴァリアブルの光はもっと速いわけで……」
「だっはっは! あんなインチキと比べたら誰だって遅いだろうな!」
高坂の元チームメイトで稀代のスピードスター、荒井光。
以前一度だけ日本代表で一緒にプレーしたことがあったが、噂では50mを既に6秒切っているという話だ。
全く、同世代にどれだけ化け物がいるのやらだな。
俺もそれぐらい足が速ければ城ヶ崎なんぞに負けないんだが。
「初速でぶち抜かれたら追いつけないぞ俺!」
「兄ちゃんならいける」
「やるしかないぞ山田よ。ほれ、すぐにリスタートしないとな」
「ぐぬぬ…………」
サッカーと違って今回みたいな個人でやるフットサルは時間が止まらないのですぐにリスタートする必要がある。
相手はもう既に準備が完了している。
「大丈夫だ山田、フォーメーションを変える。Y字戦法だ」
高坂が俺に目配せをする。
なるほどYの形になればいいんだな?
じゃあ俺が右へ行こう。
ボールを後ろに蹴り出すと同時に俺は右前へと進む。
その動きに合わせて山田弟が左へ動いた。
中央に高坂、その後ろに山田。
その名の通り、山田のみ桐谷のカウンター対策で後ろに残り、俺達三人で攻撃を仕掛けるというものだろう。
桐谷が高坂へプレスを掛けに行ったので、高坂は一度山田へと戻した。
さらに桐谷が続けてプレスに行ったが、左に開いた高坂へすぐにパスを出したので、俺は高坂が前に向いた時のためにちょうど間から顔を出せる位置に移動した。
次の瞬間、俺の足元にボールが突っ込んできた。
「おお!?」
驚きつつもなんとか足に収める。
ドンピシャで足に来たからなんとかトラップできたものの、普通じゃあり得ない。
俺が高坂から見える位置に移動したのは高坂がボールを受けるタイミングと同じだ。
それも高坂から右斜め対角線上にいて、ほぼ20mぐらいの距離がある。
それを一寸の狂いもなく、針の穴を通すようなパスを振り向きながらワンタッチで出せるのかアイツは。
本当にこの世代は化け物ばかりだ。慢心なんてしてる暇がない。怪我がなかったらアイツはどうなっていたんだ?
「縦!」
後ろから詰めてきていたディフェンスに体を張りながらキープし、上手く外から中へ斜めに走り込んでいた山田弟へスルーパスを出した。
山田弟はワンタッチした後、落ち着いてゴールの隅へ弾道の低いシュートで流し込んだ。
「やった……今度は決めた……!」
「裏抜け上手いじゃないか山田弟!」
「ナイス山田弟」
「は、はひ、ありがとうごじゃりまごにょごにょ……」
「ちゃんと喋れ。にしてもその前の大城国に出した高坂のパスよ! やっぱエグいな!」
「あれは紗凪が良いところに出てくれたからだよ。パスの受け手の位置がせっかく良いところにいるなら見逃してやらないようにしないとな」
見逃すも何もいつ見てたんだ?
俺は高坂が前に向いた時にパスの選択肢を増やすために動いただけであって、ワンタッチのスルーパスを受けるために動いたわけではないんだがな。
俺の想像する攻撃の数段階上のアイディアを高坂は持っているってーわけか。
「おい大城国」
いきなり声を掛けられた。
鹿島オルディーズの桐谷健人だ。
「お前が何でこんなフットサルに出てんだよ。ユースの練習はどうした?」
「もちろん午後からありますでな。桐谷さんこそいいんですかい? 狩野さんがいなくなってスタメン勝ち取ったから油断してるのでは?」
「ほざけ。俺は休みだったが父に誘われたから経験のために参加してるんだよ。それよりも、あのスルーパスを出した奴は誰だ? 只者じゃないだろ」
どうやら桐谷は高坂の御尊顔をご存知ないようだ。
わざわざ教えてやるのも面白くあるまい。
「日本の元至宝ですがな」
「あぁ? 誰だよ」
「プレーを見て思い出してみては?」
「ちっ、うぜぇ」
桐谷は不機嫌そうにしながらボールを蹴り出しリスタートした。
全く、柄の悪い人だぜ。