愛莉の初恋相手
それからしばらくして。
玄関が閉まる音が聞こえた愛莉は枕元にあるスマートフォンを取り出してメッセージを送る。
『今日はゴメン。ただね、私の前では幾ら兄妹とは言え今日みたいな行為は辞めて欲しいの。なんか心が痛いと言うか苦しくなるから』
お詫びと一緒に理由に書いて送信ボタンを押す。
――五分後。
「まだ返信が返ってこない……」
スマートフォンの画面をただひたすら見つめる愛莉。
――十分後。
「やっぱり怒ってるのかな……アイツ」
だんだん不安になってきた愛莉。
――十五分後
「不安にさせないでよ……照麻」
やっぱり嫌われたのかな。
あぁ私本当にバカな事したな……と後悔する愛莉。
その時、スマートフォンがメッセージを受信した。
愛莉はすぐにメッセージの内容を確認する。
『俺こそゴメンな。愛莉に嫌な思いさせて。クラスでも変な事を言ってしまった事後悔してる。本当にゴメン』
『うん。なら今度から皆に私達の事聞かれたら【仲良し】って答えて。私も仮じゃなくてそう答えるから。そしたら許す。どう?』
『わかった』
『ありがとう、照麻』
『今日は素直だな。なんかいいことでもあったのか?』
――好きな人が出来た!
とは恥ずかしくて絶対に言えない。
なので一人ニヤニヤしながらベッドの上で足をバタバタさせて、照麻とのメッセージを楽しむ愛莉。
『うん。メッセージからでもいいよね、私と照麻が仲良くなるの。だから少しずつ私とも距離を縮めて欲しいんだけどお願いしていいかな? 優莉と香莉のね、照麻との関係が本当は羨ましいの。直接だとやっぱりまだ恥ずかしいから意地悪で我儘になるけどメッセージなら顔も見えないし声も聞こえないから結構気楽。そこら辺今度から察して欲しい……です』
『わかった! 俺に全部任せろ! 今までずっと愛莉に嫌われているかと思ってたけどそうじゃなかったんだな。なんか嬉しい!』
『ばぁーかぁ。嫌いならとっくの昔に無視してる。そうじゃないって事は嫌いじゃないってこと! わかった?』
(つまり好きってこと。多分文字通りにしか受け取ってくれなさそうだけど、まぁいいっか)
「ルン、ルン、ルーン♪」
つい嬉しくて鼻歌を歌う愛莉。
いつ振りだろうか、こんなにも優莉と香莉以外に仲良くしたいと思えて、こんなにも繋がっていたいと思える相手と出会えたのは。そしてそれがまさかの異性だと思うと心が弾むように軽くなった。
『おう!』
『お休み、照麻』
直接では中々上手くはいかないけどメッセージなら仲良くそして素直になれた。
一安心した愛莉は嬉しくてニヤニヤが止まらなくなった顔を枕に埋めて静かに目を閉じた。
「好きって認めたら気持ちが楽になっちゃった。やっぱり照麻は優しいヒーローだ。もっと早く素直になれば良かったな……私」
手元にある枕をギュと抱きしめる愛莉。
初めてこんなにもありのままの自分を受け入れてくれた異性が照麻で良かったと思った。
だから認める事にした。
――私の初恋の相手は赤井照麻で良かったって。
そして、心の中で謝る。
――香莉ゴメンね。でもお姉ちゃん今回ばかりは譲れない。
そのまま愛莉の意識が深い眠りの中へ落ちて行った。




