愛莉の好きな人は
照麻と愛莉がリビングでお話ししている頃。
自室のベッドの上で寝転んで天井と睨めっこをする一人の少女がいた。
その少女は天井を凝視して黙り込んでいる。
少女漫画を読んでいたら、急に脳内にあの男が過り、読書どころではなくなったのだ。
もっと言えば、ついこの間まで大嫌いだった男の事について少し考えていた。
「なんで私アイツの事ばかり、最近考えているんだろ……」
確かに最近は照麻の事を見直しているし仲良くなりたいとも思っている。
だから別に照麻が勝手に愛莉の脳裏に出て来ても今はそこまで不快ではない。
ただ最近可笑しいのだ。
周りから照麻と親しい関係に見られるのが恥ずかしくて、つい素っ気ない態度を心とは裏腹に取ってしまうのだ。
もっと素直になりたいはずなのに中々なれない。
一体これはなんだと言うのだ。
不快。
全てが。
そう思っていたはずなのに、どうしてこんなことに。
ふと。なんの前触れもなく脳裏に流れれる光景。
――笑ってる私が可愛い
照麻がそう言った。
だから本当は。
照麻と一緒に笑いたいし、お話しがしたい。
だけどやっぱり素直になれない。
そう思うと、目から涙が零れてきた。
「あれ……なんで……どうして……どうして私泣いているの」
そう言えば今日なんで照麻が由香の胸を事故とは言え触った時、心の中であんなにもイライラしてしまったのだろうか。
もう一度、冷えた頭で考えてみる。
するとすぐに答えが出た。
「私が嫉妬? 由香に? そんなことありえない。だって――」
相手は照麻の妹である。
兄妹のイチャイチャを見て嫉妬した?
確かにあの二人は男と女なのにかなり仲が良い。
だけどそれだけ。
別に嫌らしい関係とかではない。
なのにもしかしたら照麻が由香の胸を揉んで口では事故と否定していたが、まんざら何処か嬉しそうだったから?
なんで? なんでそれだけで私が嫉妬しないといけないの?
香莉にだってそう。
私が教室に入った途端、照麻が香莉の後ろに隠れた。
その時、なんで照麻だけじゃなくて香莉にまでイラッてとしたのだろう。
私だって仲良くしたいのになんで香莉が羨ましいと思ったのだろう。
「……グスッ、グスッ、グスッ」
そう思うと胸の奥が痛くなった。
やっと見つけた私のヒーロー。
それを誰かに取られちゃうと思うと辛かった。
見栄っ張りで我儘ばかりで素直に中々なれない私をありのままの姿で優しく受け入れてくれる照麻が誰かの物になるのが嫌だった。
「……あぁ、そうか……知らず知らずのうちに恋してたんだ……私」
だからこんなにも異性と仲良くする照麻の事が許せないんだ。
今ならわかる。
由香があんなに必死なのも。
多分私と由香はある意味似た者同士なんだと思った。
愛莉はそう思った。
そしてアイツに自分だけを見て欲しいんだと気づいた。
「……初恋がアイツか。初対面印象最悪なアイツを好きになったんだ私」
アニメやドラマでは二人の男女が最初は最悪の関係だったのに気付いたらお互いがお互いに惹かれ合っていて最後は付き合ったり結婚する事はよくある。
でもそれはあくまで架空でフィクションの世界。
だから、こうゆうの胸がキュンキュンしていいなぁ~といつも他人事のように思っていたのだが、今は違う。
まさか自分がそうなるとは思ってもいなかった愛莉。
だからこの気持ちにどう接していいかがわからなかった。
でもこのまま毎日優莉と香莉が照麻と仲良くする姿を遠くから見るのは正直辛い。
となると、今の関係のままではダメだと思った。
「やっぱり私からちゃんと向き合うしかないか……」
でもどうやって?
頭の中で浮かぶ疑問。
直接だと変に緊張してしまって素直になれない。
かと言って電話をするにしてもそれはそれでかなりの勇気がいる。
それに由香と一緒の時に誤って電話なんてしたらそれこそ今日みたいに一発触発みたいな事になるかもしれない。
「はぁ~。恋って難しいな……」
チラッとドアの方に顔を向けて、いっその事照麻の方からこっちに来てくれないかな、と願望を抱いてみるがそれは無駄に終わる。
当然だ。
今までの自分の行いを見返せば、来てくれる方が可笑しい。
そこで愛莉は考える。
ならどうやったらちゃんと仲良くしていけるのかを。




