優莉の初恋相手
「よし、なら玄関まで送るよ。もうそろそろ香莉がお風呂でるか、愛莉が部屋から出て来てまた何か言われるかもだし。まぁ照麻が香莉の裸を見たくて、その瞬間を見た愛莉に罵倒されたいならお姉ちゃん協力してあげてもいいよ? やっぱり香莉のバスタオル姿見たかったりするんでしょう?」
「なっ!?」
「あーエッチだ。しかも顔赤くなってる~! むぅ~私達三姉妹で容姿も身体つきも殆ど一緒なのに香莉にだけ欲情してる~」
「ち、違うこれは……生理的現象で……」
『ん? 呼んだ?』
すると照麻の息子がピクッと何かを察したように脳に訴えって来た。
『呼んでねぇ、バカ!』
起き上がろうとする息子を制する照麻。
『なら俺の初仕事まだ?』
『当たり前だ!』
「ならこの場で私の身体の方が良いって言ってくれたら上だけなら今この場で見せてあげてもいいよ?」
ニヤリと微笑みながらの上目遣い。
卑怯だ……。
さっきまで泣いていた女の子とは到底思えない。
心の何処かで悩みが吹っ切れたようだ。
だが変わりに照麻の心の悩みが増えたような気もしなくもないのは……なぜだろう。
「――!?」
「ばぁ~かぁ、冗談よ。まぁどうしても見たいなら香莉のバスタオル姿だけでも見ていく?」
「くそぉーーー……俺が女だったら、、、見れたのに、、、」
「相変わらずそこは素直なんだね……あはは」
「き、今日は……帰ります」
内なる欲望と葛藤しながらもきちんと正解の言葉を言えた照麻。
偉い! と自分に言い聞かせて、鞄を手に持ち逃げるようにして玄関へと走っていく照麻。
そのまま靴を履いて「お邪魔しましたー!」と言って家を出て行った。
一人になった優莉がとても小さい声で呟く。
「やっぱり私より香莉の方を女として意識してるんだね照麻……。もう少し私だけを見て欲しいのにな……ばかぁ」
それは自分に言い聞かせるように。
そして何故かわからないけど、相変わらず仲の良い照麻と香莉を見ると胸がチクッとして、褒められたり頭を撫でて貰えると嬉しくなるこの感情に戸惑いを覚えた。またその時に得られる心臓のドキドキはとても受け入れやすく、とても気持ち良く、とても心地良かった。
まさか自分の初恋相手と香莉の初恋相手が重なってしまうとは。
姉としてここは譲るべきなのだろうか。
それとも照麻の言う通りここは一人の女として自分の道を貫いていいんだろうか。
でも私のヒーローであり困った時は気軽に頼れる存在だからこそ、私のこの想いが大きく揺れて中々諦められないのだ。
あの日ボロボロになりながらも、私と霧島の間に立ち恐怖した銃口の盾になるように立ちふさがってくれた。その背中に私は間違いなくヒーローの背中を見てしまった。それからはもう理屈じゃなくなった。この想いが縮むことを拒み、ただ膨れ上がっていくばかりだった。それは照麻の妹にすらいけないとわかっていながら嫉妬してしまうレベルでだ。
優莉はそんな事を一人心の中で思いながら。
「やっぱり私は諦める事を諦める事にしようかな」
と、心に誓った。
だって――好きだから。




