人間の自然現象
「ふーん。本当にそれだけ?」
「そうだけど?」
「そっかぁ。私は違うと思うけど照麻がそう思うならそうって事かな」
「うん?」
「まぁいいや。それより香莉もお風呂入りなよ」
「それもそうですね。では照麻さん、帰るときは気を付けて帰って下さいね。間違っても帰る振りをして私を覗きに来たらダメですからね」
そう言って立ち上がる香莉。
「し、しねぇってそんなこと!!!」
「そうなんですか? 私はてっきり照麻さんが今日は狼になる日なのかなと今日由香さんの胸を触っている所を見た時に思いましたが」
あの柔らかくて程よく弾力を照麻の脳がそして左手が思い出す。
つい男ならば願わくばもう一度あの――って俺は妹相手に何を思っているんだ!?
照麻は自分で自分のポンコツ振りに嫌気がさした。
なんで由香に発情しているみたいになっているんだと。
確かに学園生それも今年まで諸事情により今まで女の子と殆ど話した事がない照麻が女性に対する免疫を持っているわけがないのだが。
それでも由香にってのは違うと言うか。そもそも最近血が繋がっているが本当の兄妹ではない事を再自覚したからなのか、それとも目の前にいる三人と急に仲良くなったのか、恋愛対象として見ていないはずの人間――女性にからかわれ過ぎているせいかやけに煩悩が働くようになった気がする。
だがそれを認めてしまえば四人の可愛いくて美人な女の子達の思う壺だ。だから決して屈するわけにはいかない。
「ちなみに照麻さんがよければ一緒にお風呂入りますか?」
「マジか! ……ん? ゴホンッ!!」
一度咳払いして心を落ち着かせて。
さっき思った事をしっかりと思い出して、あくまで紳士を貫く。
「って首を少し傾げての上目遣いはズルいぞ! それによく見たら目が笑ってる」
「てへっ。バレてしまいましたか」
そう言って微笑む香莉がやっぱり可愛いと思ってしまう照麻。
そうなんだかんだ言って三姉妹は容姿が整っていて可愛いのだ。
だからなのか、男として過剰に反応してしまっているのかもしれない。
でもなんか由香と少し似ている気がすると照麻はこの時思った。
口調が似ているせいか、仕草が似ているせいか、それとも――。
試しに右手を上げて香莉の頭を撫でてみる。
「わぁ!? ……ぅう、て、てててるまさん!?」
急に微笑みが消えて、顔を真っ赤にした香莉が驚いた顔しながらもチラチラと照麻を見る。
「あらまぁ~、嫌がらないんだ。香莉が素直になるって……珍しい」
二人の会話を静かに見守っていた優莉が口を開いた。
照麻が試しに優莉を見ると。
優莉は優莉で驚いている様子だ。
「香莉抵抗しないの?」
「……身体が……動かないです」
「ふぅ~ん。もしかして緊張してるの?」
「は、はい……」
「良かったね、香莉」
そう言って優莉がほほ笑む。
照麻は確信した。
なんだ、香莉も由香と一緒で甘えん坊さんなんだと。
それで色々と構って欲しいから今までからかって来たのかと。
ならばこれからは香莉の好意をもっと前向きに受け止めてあげないといけないと思った。
「……はい///」
「香莉って本当は甘えん坊さんだったんだな。学園ではしっかり者ってイメージがあったけどこれはこれで新鮮で見てて可愛いな」
その言葉に更に香莉の顔が、全身が、熱くなる。
頑張ったら白い湯気が見えるんじゃないかと思えるぐらいに熱くなっている。
だけど身体が緊張してまだ動けない香莉は激しく鼓動する心臓、急に全身を駆け巡る血の流れが速くなった感覚を必死に抑えようと心の中で頑張って見るが、嬉しさが大き過ぎて全然言う事を聞いてくれなかった。
当然女の子にだって性欲と呼ばれる物はある。
さっきまで幾ら仲良くなっても男女の関係にはならない。なるならちゃんとお互いの想いを確認してからと思っていた脳が溶けていく。
もし今上を触られたら――。
上はまだいい。
いや良くはないが、まだいい。
でも、もし今下に手を出されたら――。
香莉は今も凄い勢いで欲望に浸食されていく理性を働かせる。
幾ら好きとは言え、今日のあの場面を見た後では脳裏にチラついてしまう。
もしかしたら自分もそうなるのではないかと。
そんなの絶対に嫌だ――だって恥ずかしいから。
でも……。
嬉しさのあまり願望が入り始めた思考。
そして脳が変な方向に動き始めたせいで、起こってしまう人体の自然現象が激しくなっていく。太ももの付け根辺りを中心とした洪水警報が発令されてしまった。
――もし、はしたない女だと思われたら。
「――ご、ごめんなさい。今日はもうお風呂に入ります!」
最後の力――本能と僅かばかりの理性に全てをかけて強引に動きたくない身体に力を入れて逃げるようにしてバスルームへと向かって走っていく。




