あれ、喜んでない?
――……
――――……
――――――……
「ぅ……うーん……」
甘い香り……これは――ん、眩しい。
それは天井から降り注ぐ白い光。
うめきながら起き上がる照麻。
「あれ……俺なんで寝てんだっけ……?」
――確か愛莉の電撃を喰らって。
ん?
そもそもの原因って……あーあれか。
照麻は心の中で解決した。
「あら。お目覚めになられましたか?」
照麻が首から上を動かす。
「あっ、香莉……もしかして?」
「はい。あれから気を失ってずっと寝ていましたよ。ちなみに由香さんは帰りが遅くなるとご両親に怒られると言われて十五分ほど前にお帰りになりました。今は優莉がお風呂に入って愛莉は自室で少女漫画を読んでゆっくりされています」
「そうだった」
照麻は慌ててスマートフォンを取り出して由香にメッセージを送ることにした。
だが由香からメッセージが先に来ていた。
急いで中身を確認する照麻。
『申し訳ございません。本日はお母様から早く帰ってこいと言われたのでお先に帰らさせていただきます。先に言っておきますが浮気は駄目ですからね! それにしてもラッキーハプニングと言うのは唐突に来るものなのですね。あの瞬間つい羞恥心で死んじゃうかと思っちゃいました。と言う事でお兄様、今度お詫びお願いしますね。それでは少し早いですがおやすみなさい、愛するお兄様』
「う~ん。怒ってないなこれは……てか返事どう送ればいいんだ俺?」
照麻がスマートフォンの画面を見てにらめっこする。
よく分からないが照麻に気をつかってなのか怒っている感じが全くしない。
ちなみにラッキーハプニングとは照麻を基準に考えて間違いないのか。
いや普通に考えてそうだろう。だとすると――。
嗚呼、由香よ。
”仮に誰かに見られたら誤解しか招かない冗談は家の中だけにしてくれ”
でないといつか本当に誰か勘違いしてしまうぞ。
そう思いながらも『お詫びに今度俺から両親に上手い事言って休日にお泊り来れるようにしてあげるから誤解を招く文言は家の中だけでお願いします。後今日は事故とは言え嫌な思いをさせてすみませんでした』と返信した。
一分後。
『わかりました。実はお兄様がお相手でしたので嬉し……いえ、そこまで気にしていないです。ですので謝らないで下さい。だからそこまでしてくれなくてもいいのですが……でもまぁお兄様がどうしてもと言うのであれば行きます! いえ絶対に行きます! と言う事でお願いします、愛しのお兄様!』
とすぐに返信が来た。
それも愛するを愛しのに変えてだ。機転の良さと言うべきか、意味がしっかりと伝わらなかったのかはさておき照麻はとにかく由香が怒ってないならとりあえずはそれでいいやと思う事にした。
「なるほど、なるほど。由香ちゃんと照麻は付き合っていたんだね」
「え? 私には違うって言われましたよ?」
「本当に? でも今ね照麻のスマホに由香ちゃんからのメッセージで浮気はダメって書いてあったよ?」
「本当ですか? そう言えばあの時もそんな事を言われてましたけど……結局あれは由香さんの冗談だと照麻さんが言われていたはずですけど……」
「そうなの?」
後ろから聞こえてくる声に照麻が飛び跳ねる。
そこにはいつの間にか照麻の後ろでスマートフォンの画面を除いていたと思われるパジャマ姿の優莉がいた。まだ制服姿の香莉は少し離れた所に座って珈琲を飲んでいる。
「ちょ、優莉勝手に見るな!」
「まぁまぁ~もう見ちゃったし隠さないでよ」
「見たってあのな……開き直るなよ」
「なら怒る? いいよ、悪いのは私だから話しは聞いてあげる」
そのまま優莉はヒョイとソファーの背もたれを飛び越えてお尻から着地して座る。
「別に怒らないけどさ」
「なら質問。照麻と由香ちゃんって本当は付き合っているの?」
「んなわけないだろ。てか最後まで見たならもう知っているだろう。あれは由香の冗談だよ」
「そうなの?」
「あぁ。よくわからんが由香は由香で多分だけど俺に構って欲しいんだと思う。多分一人が寂しいんだろうなと俺は考えているしそう思っている。だから俺がそこまで強く何にも言わないからさっきみたいことが度々起こると言うか何と言うか。とにかくそこに勘違いを入れないで欲しいのと本気にしないで欲しい。でもさ妹なんだしそこで強く言ったら由香が可哀そうだろ?」
身近に甘えられる存在がいるかいないかでは生き方や生活環境が大きく変わってくると思う。本当の意味で過去一人ぼっちになった事がある照麻はそれを由香には知って欲しくないと思うし、知らなくていいとも思っている。




