最強と最恐の喧嘩
「赤井……俺はお前を親友だと思っていた」
「そうか……だったらまずは話し合わないか」
「それは無理だ。なぜなら可愛い由香ちゃんと隙あればイチャイチャし、香莉さんともここ数日ずっと一緒にいるじゃないか。何より、優莉さんと愛莉さんまでお前が独り占めしている。これは男として黙っていられない……反論はあるか、赤井」
モテない男共は嫉妬に心を燃やし、あろうことかテストができなかった怒りと一緒に照麻にぶつけようとしているではないか。
このままではほぼ完治しかけている傷がまた元に戻ってしまうかもしれない。
しかも獣となった野郎どもは絶対に香莉には手を出そうとはしない。
つまり全ての怒りの矛先が照麻一人に向けられるのだ。
仕方がない。
普段から罵倒されているんだ、ここはアレを使おう。
「待て、お前達。本当に俺が愛莉から好かれていると思うか? アイツはいつも俺に『早く帰れ』、『バカ』、『最悪』と言って罵倒しかしてこないじゃじゃ馬だぞ? 少なくともそこに対しては情状酌量の余地があると言わせてくれ」
クラスの男子の動きが止まる。
今の内に逃げ道を探す。
「まぁそれもそうだな。なら優莉さんとの関係は認めるんだな?」
「仲良しだとは認めよう」
「わかった。なら最後の質問だ、愛莉さんとは結局どうなんだ?」
「…………俺が罵倒されて、アイツが喜ぶ関係? かな」
俺は何を言っているんだ!? これでは俺がMだと告白しているようなものではないか!
と照麻が心の中で後悔する。
特殊性癖の持ち主だと思われてもそれはそれで嫌だ。
「つまりご主人様と下僕の関係か……」
まぁ今は……あれ?
「「「う、羨まし過ぎる!!!!!」」」
クラスの男子の反応が照麻の想像してたものと違う。
試しに女子を見て見れば、ドン引きされているではないか。
ん? 前方の教室の扉に居るのは優莉と愛莉……。
しまった、今の聞かれていたのか……。
「アンタねぇ……私とも仲良くするって言ったでしょうが!」
頬をピクピクさせてどうやらお怒りのご様子のご主人様。
クラスの教室の壁を撃ち抜く黄色い閃光が照麻の髪の毛を数本焼き落とした。
「死になさい、この変態下僕」
死んだ魚を見るような視線に照麻の生命の危機を感じ取る。
あれ? クラスの男子の一部がそんな愛莉を見て「いいなぁ~」「俺も蔑むれたい」となにやら言っている。
これはこれでチャンスだと思い、愛莉に視線が向いたタイミングで前がダメならと後ろの扉からと思い鞄を持ち一旦やり過ごす為に逃走を図る。
すると前門の虎と後門の狼が揃ってしまった。
「お兄様? 私とはそう言った(男女の)関係を拒まれる癖に他の女性、よりにもよって愛莉さんとは裏ではそう言ったご関係だったのですね」
由香は照麻が放課後、香莉の家に行くことを知らない。
なので当然放課後は家に帰宅だと認識している為、一緒に帰ろうと思い迎えに来てくれたのだろうが正直タイミングが最悪だった。
「はっ? 誰がこんな奴とそんな関係になると?」
「愛莉さんですよ? さっき変態下僕と言われていたじゃないではありませんか」
こうなった以上、命が最優先だ。
照麻は持っていたカバンを捨てて、香莉の背中に隠れる。
その時、チラッと愛莉の鋭い視線が照麻と香莉を射抜いた。
だが今はそんな事を気にしている場合ではない。
前門と後門はふさがれた。
もう逃げ道はない。
だがなぜか愛莉と由香が出入口をふさぐ形で立ち止まり、睨み合っている。
「お、おい、赤井……止めろ……でないと俺達全員死ぬぞ?」
「そ、そうよ……アンタお兄ちゃんでしょ。なんとかしなさい」
「なんで私まで巻き込まれないといけないのよ……」
クラスの全員がモテない嫉妬、テスト後の後悔を一時的に忘れ、見えない火花を散らす二人から離れるようにして照麻と香莉の元へと集まる。
「それにお兄様とそんな羨ましい(男女の)関係になってタダで済むと?」
んーなんかキレる理由が違う気がするようなと内心思っていても言えない照麻。
「えっ? 普通にアイツとは嫌だけど……」
愛莉の拒絶反応に照麻の心が締め付けられるように痛む。
そこまでハッキリ言わなくてもいいと思う。
せめてもっとこうオブラートに包んで欲しいと言いますか。
二人きりの時はもう少し優しいのに、何で人の目があるときはこうも厳しいのだろうか。
だが幾ら考えた所で照麻にわかるはずもなく、すぐに考える事を止める。
一度咳払いをして愛莉。
「まぁいいわ、理由はなんにせよ、アイツと私は仮とは言え仲良し。だからさっきの一撃と言動は冗談だって言わなくても当然わかってるわよね、照麻?」
それはまた誰がどう見てもバレバレな作り笑顔で微笑んでくれる愛莉。
まぁ何とも愛くるしい微笑みなことで。
優莉はそんな愛莉を見て「まぁまぁ、落ち着いて」と隣で言ってくれているが、あまり効果がないご様子。
そもそも仮とは一体どういう意味?
とこれもまた内心思っていても言えない照麻。
「お兄様を……困らせる女性は私が排除します!」
「あぁ~もう! アンタはまずその重度のブラコンを少しは直しなさい! 見ててイライラするのよ!」
雷撃と氷柱が同時に出現し、空中で相殺された。
バチバチと音を鳴らし放電する雷と小さい欠片となり飛び散る氷の結晶。
クラスの全員が言葉を失い、一斉に両手で頭を護り、魔術を使い全力で身を護りその場に伏せる。
机と椅子が宙に舞い、教室の壁に勢いよく激突し無差別に落ちていく。
二人の喧嘩は対魔術用としてミサイルを撃ち込まれてもそう簡単には壊れないはずの校舎におびただしい傷跡を付けながら激しさを増した。
騒ぎを聞きつけてやって来た教師達ですら愛莉と由香の喧嘩の仲裁に入るのを躊躇っている中、最後は学園長がげんこつで世にも恐ろしい二人の喧嘩を止めた。
――それから。
五人はお怒りになられた学園長から逃げるようにして足早に香莉の家へと向かった。




