際どいからこそまた良いものもある
教室のチャイムが鳴ってからも照麻は一生懸命先生の授業を聞いて黒板に書かれた事を板書していく。それは授業の途中で各先生達が「誰かに脅迫でもされたか?」「何か悪い事したなら先生に後で話して見ろ。相談にのってやる」「学園長に何か言われたの?」「頭のネジ外れたなら保健室に行っていいわよ?」と赤井照麻と言う人間を心配する程だった。香莉は先生に照麻が何か言われるのを見る度に反論する照麻を見て「あらま~」と言ってクスクスと笑っていた。香莉はそんな照麻を見て、なんだかんだ言って皆に愛されているんだなと思った。何より普段はダメ人間でもいざという時にはしっかりと立ち上がってくれる照麻は本物のヒーローみたいだなと感じた。
それから照麻は少しでも時間があれば勉強と頑張った。そんな照麻を誘惑しようとクラスの連中が甘い言葉を何度かかけてきたが、そのたびに香莉が「そんな誘惑したらダメですよ。誰かが頑張っている時はその人の幸せを願い応援してあげてください」と言って護ってくれた。その言葉を聞いた照麻は香莉って天使みたいな事を言うんだなと思っていると急に「退路はありませんよ?」と言って照麻にプレッシャーをかけてきた。この世に甘い世界等やっぱりないらしい。放課後になり照麻は昨日と同じ場所で机に教材を広げて三姉妹が私服に着替えて来るのを待っている。スマートフォンがメッセージを受信したので待つついでに確認する。
『本日もお勉強頑張って下さい。いい子にして家で待ってますので帰ってきたら今日も甘えさせてくださいね?』
由香からの応援メッセージである。
嬉しい気持ちになった照麻。
相変わらず甘えん坊だなと思った照麻は「わかった」とだけ返事をしてスマートフォンをポケットにしまう。
すると香莉が一番最初に戻って来た。
「お待たせしました。なら私達だけで先にお勉強始めましょうか」
「おう、頼む……香莉」
声のする方向を向いて返事をした照麻だったが途中声が止まってしまった。
そこには私服姿の香莉がいた。のだが黒のミニスカートにひざ上まである黒のソックス。視線を上にあげれば両肩が出る白い服を着ていた。
――ゴクリ
両肩から見える下着の紐。期待を膨らませて膨らみの部分に目を向ければ胸元が見えそうで見えないと何とも邪の心が生まれそうになる服装。照麻の全身の血の巡りが速くなり、心臓の鼓動が強くなる。
「あらあら。私の事が気になるんですか?」
「いや……別に……その、可愛いなって」
照麻は必死になって衝動を抑える。
香莉にその気がないのはわかっているが、これは目の毒だ。
ここで勘違いをしてしまえば取り返しのつかない事になると何度も何度も自分に言い聞かせる。
「うふふ。ありがとうございます。もうだいぶ仲良くなりましたし、これくらいなら心配ないかなって思ったのですが、やっぱりまだ照麻さんには刺激が強かったですか?」
「だい……じょうぶだ」
「そうですか。なら良かったです。実を言うと私ちょっと恥ずかしいんですよ」
そのままクスッと笑って照麻の隣に移動する香莉。
「でもプライベートの私も見てもらいたいなって言うのがあって頑張ってみました。それに照麻さんってこうゆう時すぐに色々と顔に出て見ててとても面白いんですよ。だから私なんかで良ければ見ていいですよ」
上目遣いで香莉がニコッと微笑む。
この時照麻はやっぱりからかわれているだけなのかと内心密かに期待していただけにショックを受けたが平常心を装った。だって今以上に単純な奴って思われたらもっとからかわれるかと思ったから。まぁ香莉にならいいかなと心を許してはいるが、別にそれを照麻自身から暴露する必要はないわけで。
「そっかぁ」
するとベランダの窓から入って来た風がフワッと香莉のミニスカートを揺らした。
それと同時に照麻の視線が香莉の顔から下へと瞬時に動く。
一秒にも満たない僅かな時間で照麻はその才能を使い、来たるべき時に備えて視線を固定する。正に神業とも言えるそれは一歩間違えれば人生が終わる赤井照麻が持つ才能であると言えよう。
「って言ってる側から何処見てるんですか?」
慌てて視線を上にあげる照麻に「えいっ!」と言って痛くないデコピンをする香莉。
そのまま「ラッキーハプニングはそうそうありませんよ」と言って席に座る。
やはり警戒しているのかミニスカートを少し引っ張って黒のソックスとミニスカートの間から見える太ももを少しでも隠そうとする香莉のしぐさに釘付けになってしまった照麻の視線。
「さぁ、お勉強始めましょうか」
(照麻さんってやっぱり私に気があるのかな……だとしたら嬉しいです)
照麻は咳払いをして頭のスイッチを切り替えてから返事をする。
「よし、今日も頑張るか!」
そうして照麻と香莉だけで優莉と愛莉が来る前にテスト勉強を始めた。




