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照麻と由香【朝の時間】


「おはようございます、お兄様!」


 そして朝から元気の良い声が聞こえてきた。

 玄関の方から聞こえてくる足音に照麻の心臓がドキドキする。


「マズイ……由香に俺が居留守を意図的に使っていたとすると殺される……」


 照麻は慌ててスマートフォンにイヤホンを装着し、急いで音楽プレイヤーのアプリを起動し大音量で流し始めた。両耳を塞いでインターホーンのチャイムが聞こえていない振りを全力でする。

 数秒後玄関とリビングを繋ぐ廊下を歩いて、照麻と同じく魔術学園の制服に身を包んだ可愛い妹が姿を見せる。視界に黒の靴下が見えてからさり気なく視線をゆっくりと上に上げて今気が付きました感を精一杯演出する。


 黒のソックスに膝上までしかない紺色のスカートに純白のセーラー服を着た由香。

 その表情は朝から笑顔だった。


(ふぅー、なんとか助かったみたいだな)


 心の中で安堵してからイヤホンを両耳から外す。


「お、おはよう。なんだ来てたのか」


「はい。昨日の今日でしたのでやはり心配になって。申し訳ございません勝手に入ってしまい。ですがお兄様の位置情報がここを示していましたので入らさせて頂きました。一応言っておきますが玄関のチャイムも何回か鳴らしました。残念ながら音楽を聴かれていたみたいで聞こえていなかったみたいですが」


 うん、三回鳴らしたの知ってた、などとは口が滑っても言えるわけではなく。

 照麻はドキドキしながらも平常心を精一杯心掛け笑顔で答える。


「そうか、それは悪かったな」

(てかストーカーじゃないんだから位置情報を毎日数時間おきに確認しないで欲しいんだが。てか俺そうゆうの一切設定してないんだよな……ずっと思ってたけどそこらへん一体どうなってるんだ?)


 口から出る言葉と心の中で生まれた言葉が全然違う照麻。

 目は口程に物を言うというが実際その通りみたく。


「位置情報の設定は先日お兄様の家にお泊りした時に夜な夜な私が全て設定しておきました!」


 満面の笑みで答えてくれる由香に照麻は笑みを失い、言葉を失ってしまった。

 これはもう色々と不味いのではないかと正直心の底から思ってしまった。由香に悪気が一切ないのはわかっているし知っている。だからと言ってこれは果たして放置していていいのだろうかと言う問題である。由香は、立派に育ち、制服越しでもわかるぐらいに発達した胸を自信満々に張っている。


「あっ、そうなんだ……ありがとう」


「はい! 何があっても私がお兄様をお守りしますので安心してください!」


「それでここに来た本当の理由は?」


 照麻の一言に自信満々に満ちた由香の表情が変わる。

 これでも兄妹。由香がここに来た理由がただ心配ってだけじゃないことぐらい何となく想像がつく。

 恐らくではあるが、照麻の心配と一緒に自分の心配をしているのだろうぐらいには。


「……知りたいですか?」


 含みのある言い方に照麻はコクりと頷く。


「昨日いた女性の方が可愛い方でしたので、ちょっと嫉妬したのと……私のお兄様が取られてしまったのではないかと心配になったからです。……もしかして呆れましたか?」


 上目遣いで心配そうに照麻を見ながら、由香が本音を暴露する。

 今まで赤井照麻という人間にラブコメのラブがなかった根本がここにある。照麻が由香以外の女の人と仲良くすることを必要以上にいつも警戒しているのだ。なので女の子と二人きりでお出掛けなど当然由香を除くと今まで一度もない。


「……まぁ、そんな所だとは玄関から入って来た由香を見て察しがついていたからそこまで呆れてもないし、驚いてもない。ってかいつものパターンかぐらいの感覚かな」


 照麻は思ったままの事を口にする。

 別に由香が悪いわけではないし、別にこれはこれでいいやと照麻は照麻で現状を受け入れているので大した問題ではない。今の所、妹が普通に可愛いという面からなのか他の異性を気になった事もなければ好きになった事もないからだ。ただそのせいか甘い青春がいつまで経っても来ない事に少し寂しさを覚えているぐらいの感覚だ。


「ほっ、良かった」


 由香は胸に手をあて、安心している。


「んで、話し変わるけど昨日から学園に通った感想は? 困った事があるなら相談にのるけど?」


「特に問題はありませ……いやあります!」


「ん? どうしたの?」

(まったく、紛らわしいな)


「私昨日クラスの女の子から聞かれたのですが、お兄様は火の魔法を使う。だけどそんなに凄い人じゃないよね? 本当に兄妹なの? と聞かれました。お兄様は去年学園で『炎帝』を使っていないのですか? 外部の補助が必要とは言え『炎帝』ならば私とも対等に――」


 由香の言いたい事はわかる。


 炎帝、それは使用者の魔力量に応じた自動防御、身体能力向上、魔力の供給量に応じた炎属性による攻撃力向上を持つ魔術。ただし少しでも扱いを間違えれば使用者すら燃やし尽くしてしまうfase七の魔術の一つ。対由香用というわけではないが、陽と隠、男と女、空と地のように氷と対をなす炎属性の魔術である。


「あれはまだ未完成だからな。無理して使えば全身の魔術回路にダメージそして当然限界を超えて使えば肉体にもかなりのダメージを与える事にもなる。だから去年はfase三までの魔術しか使っていない。それに俺の体内の魔力保有量は由香みたいに多くないからfase三の魔術でもそう何発も連続では使えないし、出力を調整したfase四からfase六までの魔術は当然一つも修得していない。よって下級魔術師として一応認知されている。そもそも測定器がそう言ってるしそれで別に俺は構わないからな」


「なんか納得がいきません!」


 身を乗り出し、照麻と由香の間にあるテーブルに勢いよく両手を置いて言い切る由香。

 一体何をそんなにムキになっているのだろうか。これが世間一般的に言われている天才と凡人の差だと何故学園の特待生にもなった由香が気付いてくれないのだろうか。いや気付いているからこそ認めたくないのか。どちらにしろ、照麻の魔術は身の丈に合わない魔術とも言えよう。だからあまり使いたくもないしそもそも使おうとすら思わない。


 それはさておき突然目の前の視界が大きな胸で一杯になった照麻は眼福と思いつつ慌てて視線を上にあげながら答える。


「いや……別にそれで由香に迷惑がかかるわけじゃないだろ?」


「そ、それはそうですが……」


「ん? あれもう八時になってる。ほらカバン持って学園に一緒に行くぞ」


「はい!」


 二人はそのままカバンを持ち、玄関を出て魔術学園へと向かった。



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