実は似た者同士
一般の学園生が住むにはとても広く仮に十人いても快適に過ごせるのではないかと思ってしまうぐらいに広く感じる一室に設置された足の短い長テーブルに四人が向かい合って座っている。
ベランダの窓から入ってくる新鮮な風が心地よく、手元に置かれた珈琲もまた眠気を覚ましてくれる。仮に寝ようものなら隣の優しい女の子が起こしてくれるだろう。そんな勉強にはもってこいの環境で赤井照麻は必死に教科書とノートを開き勉強していた。照麻の隣にはクラスメイトであり席も隣の藤原香莉が私服姿でいる。テーブルを挟んで照麻の正面には優莉、優莉の隣であり香莉の前に愛理がいる。当然二人も私服姿でとても涼しそうだ。実は照麻と肩を並べるのではないか疑惑が出てきた愛莉は優莉が勉強を教えている。さっき四人で話し今日からテストが終わるまでの平日は一緒に勉強する事になった。
「「うぅ~ん~」」
普段は息すら合わない二人が同じ事を言い、同じ姿勢で悩んでいる。
この事実に香莉と優莉は本人達にバレないように笑いを必死にこらえていた。
頭を掻くタイミングもペンを回して悩むタイミングも一緒。まるで鏡を見ているようだった。
「ダメだ、香莉ここはどうやって解けばいいんだ?」
「ダメ、優莉ここはどうやって解けばいいの?」
正に息ぴったりと言えよう。
そのまま二人の視線が重なり合ったかと思いきや、二人が同時に立ち上がって闘志を燃やす。
「絶対お前には負けないからな!」
「その言葉そっくりそのまま返してやるわよ!」
「「ふんっ」」
ソッポを向き合った二人はすぐに勉強に戻る。
お互いに斜め前にいる人間には負けたくないと思い必死だった。
そんな二人を見て優莉と香莉は嬉しそうに微笑み合う。
「では、私と一緒にこの問題をやってみましょうか」
「おう! 頼む」
「では基本的な事からの確認です。ここで働く力をなんと言いますか?」
教科書に書かれた内容から香莉が言いたい事を考えて答えを探す。
「く、クーロン?」
「正解です。ただしくはクーロンではなくクーロン力です」
細い指が指す教科書の太字に赤線を引いて行く。
定規を使うのがめんどくさいのでとりあえず引いて後で確認しようと照麻が思っていると、ペチッと手を叩かれた。そのまま女の子が使う可愛らしいデザインがプリントされた定規を受け取って丁寧に線を引いた。すると香莉の表情に笑みがこぼれた。どうやら納得してくれたらしい。
「ではこの式で言うkとは何のことですか?」
「う~ん。k……k……」
こんな初歩的なことぐらいと思うが、赤井照麻の実力はこの程度なのだ。
だが香莉はそんな照麻を見ても呆れるどころか、しっかりと丁寧に教えてくれる。
全ての答えをすぐに教えるのではなく、しっかりと照麻自身に考えさせて自己解決能力の向上を願って。それは家庭教師や塾の先生がするみたいに生徒――照麻が理解するまで粘り強く。
「ちなみに8.9876×10の9乗と言うのがクーロン定数の値となっています。ここはテストでも必要になってくるので赤ペンでノートに目もしておきましょう」
「わかった」
家でも復習ができるように、香莉が大事だと言った所をノートにも書き写していく。
疲れが溜まって来たところで一度大きく背伸びをして、香莉が淹れてくれた珈琲を飲む。
そのまま一度大きく深呼吸をして勉強。
このルーティンでまずは基礎知識を月曜日から金曜日までの五日間を使い、基本科目となる五教科を勉強する事にした。中間テストは、国語、数学、理科、社会、英語の五教科がテストされる。期末テストではこの五教科以外に魔術基礎、魔術一般教養、魔術倫理、魔術哲学、魔術の歴史が追加される。
「今日中に理科の基本的な知識だけでも抑えないと大変な事になりますから、もう少しだけ私と一緒に頑張りましょうね、照麻さん」
「おう。香莉本当にありがとうな」
「はい」
二人はそのまま勉強へと向かう。
真剣に考えて、何かを覚えようとする照麻。
そんな照麻がいつもよりカッコよく見えたのは香莉だけの秘密だった。
それにこんなにも堂々と顔を見られると思うと、ちょっとだけ照れくさいながら嬉しい気持ちになった。照麻が香莉をこんなにも頼ってくれる。いつも助けられていただけにその恩返しがこのような形で出来るとは香莉にとっても嬉しい事だった。照麻に教えながら自分もテスト範囲の復習これは正に一石二鳥なのだ。
「――ちなみに二つの荷電粒子間にはたらく力ですが、力の大きさは距離の2乗に反比例し、両方のもつ電荷の積に比例するというクーロンの法則に従います。ここはそのまま意味ごと覚えてください」
「お、おう」
「さらに 電荷の符号が正負であれば引力となり、同じであれば反発力となりますのでこれも一緒に覚えましょうね。反発力は別名斥力とも言われます」
「なるほど……やっぱり香莉は頭がいいな」
そう言って照麻は急いでノートを取っていく。
授業中先生が大事だと言っていた場所は全て香莉の頭の中に入っており、中間テストというものに対しては抜け目の一つもない。これも日頃の見えない努力の結果である。対していつも家に帰ってはゲームや漫画と言った娯楽に勤しんでいた者はこうしてテスト前苦労すると典型的なパターンに陥っていた。そんな照麻と愛莉を見て香莉と優莉は小声で「似た者同士だね」「ですね」と言って二人に隠れてクスクスと笑いながら二人を見守っていた。




