女子生徒のスカートの中
「あ~かいくん、僕達とちょっとお話ししませんか?」
テストの危機を一人脱出した照麻は声のする方向に振り向く。
そこにはさっきまでテストと聞いて、喚き泣き叫んでいたクラスメイトが一、二、三、四、……、と途中から数えるのが面倒になるぐらい沢山いた。
皆の視線が突き刺さるように痛いのは何故だろうか。
別に照麻は皆の迷惑になるような事をしてもいなければ怒らせる事もしていないはずなのだが。
さてはテスト前で情緒不安定になっているのではないか。
そう思った照麻は仏のような広い心を持って話しを聞いてあげる事にする。
「おっ? お前らそんな怖い顔して皆どうしたんだ?」
照麻は立ち上がってクラスメイトの顔を見渡す。
なんか嫌な予感がするなと思った照麻。
こうゆう時の人間の勘と言うのは本能的に危機的状況を察知する事が多い。
そのまま念の為に手足をぶらぶらさせてストレッチを始める。
「てめぇ! なに一人助かろうとしてるんだ! 俺達仲間だろ!」
「んっ?」
さて仲間とは何のことだろうか。
心当たりは特にないが。
だって話した事ない奴までいるし。
「俺達はバカ同盟仲間だろう!」
ようやくクラスメイト達が言いたい事を理解した。
そのまま人差し指を立てて、横に「チッ、チッ、チッ」と言いながら振る。
「ふふっ、それは違うな。君たち」
「あぁ!?」
「俺は今日から生まれ変わったんだ。そう俺は次の中間テストで全教科赤点を回避するとここに誓う!」
クラスメイトが一斉に動き始める。
「てめぇ、何カッコつけてやがる! 去年学年ドベ代表だった奴が! テスト赤点回避だけでなく香莉ちゃんとまで仲良くしやがって絶対許さねぇ、皆行くぞーー!!!」
「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」」」」
ガシャ!
照麻は間一髪の所で男子生徒の襲い掛かってくる手を躱して教室の扉を開けて廊下を全力で走り始めた。後ろを振り向けば十人を超える男女が追いかけてくる。放課後廊下で会話を楽しむ生徒達の隙間を縫い照麻は逃げる。
テロリストを倒す実力が合ってもクラスメイトに勝つ実力はない。
なぜならこんな所で力を使えば、バカ連中全員が最悪敵になるからだ。
そんなの絶対勝てるわけがないことぐらいは大馬鹿にもわかる。
廊下の端にある階段をジャンプして一気に駆けおりる。
これで少しでも時間を稼ごうかと思ったが、その考えが甘かった。
「うそだろ……おい、お前ら全員運動神経良い組か!」
照麻は男子生徒だけでなく女子生徒がスカートの中を気にせず大きくジャンプしてくる姿を見て一瞬硬直した。黒、白、赤、ピンク、パンダ、いちご、そして水玉! 照麻の目が認識した女子生徒の下着の色である。照麻の目は例えそれが一秒程度でもしっかりと色と柄を見極める事ができた。そして人間の頭の中には物事の瞬間を記憶として保存する機能があるのだが、この能力が勉強には使われないが、エロハプニングに関しては驚異的な力を発揮するのが赤井照麻と言う人間の才能でもあった。本当にどうでもいい才能である。だがその才能のおかげで堅物な女子代表とも言える風紀委員の子が少し割れ目に食い込んだ水玉のパンツとは世の中素晴らしいものである。と思いながら照麻は自分の才能に酔いしれながらも逃げる。
赤井照麻はそのまま二年生の一つ下の階にある三年生の教室の前を全速力で駆け抜ける。
「見つけた。赤井覚悟しろ!」
挟みこむようにして一本道の廊下の反対側から別の女子生徒二人と男子生徒一人が現れた。
「おいおい! クラスの半分近くが敵かよ!」
照麻はチラッと後ろを見るが逃げ道はもうどこにもない。
だが足を止めれば後ろの十人程度の集団にやられる。
どうする、どうする。
そう思い悩んでいると前方の窓を開けて一組のカップルが外の景色を眺めながら会話を楽しんでいるではないか。そしてあそこにいるのは由香か。
「先輩!」
照麻が大声で叫ぶ。
「お二人共伏せてください!」
照麻とその後ろの集団を見た男女が慌てて頭に手を被せて伏せる。
十人以上の人間が両サイドから真剣な顔をしていきなり走ってきたら当然誰だって驚くし何より恐怖する。
照麻はそのまま窓の外に向かって一直線に大きくジャンプした。
ここは二階。下手したらまた大怪我をするのだが。
校門に向かい歩いている由香を信じて、いざ!
「由香!」
その声は友達と歩いていた由香の耳にハッキリと聞こえる。
「二階の空いている窓を凍らせて、俺を助けてくれ!」
「任せて下さい!」
空中浮遊と言う名の自由落下を始めた照麻を見た由香はすぐに状況を察してコクりと頷き言われた通りに魔術を使う。照麻が飛びおりた窓を氷漬けにして空中に氷の滑り台を作り、そのまま滑ってこちらにやって来れるようにする。
それを隣で見ていた由香のクラスメイト後藤小夜子は「はっ?」と言って驚きのあまり頬を引きづらせてさせて苦笑いをしていた。
「助かった、由香。後で事情は話すから今は助けてくれ!」
「わかりました」
照麻は由香の後ろに隠れてクラスメイト達が来るのを待つ。
そしてゾロゾロとやって来たところで。
「さぁ、かかってこい! 由香が相手になってやる!」
何とも情けないセリフをあろうことか威張ってそれも由香の背中に隠れながら言う照麻に後藤小夜子はドン引きしていた。
由香はとりあえず照麻を護るようにして立っているが、正直困惑しているのか何度も照麻と目の前にいる集団を見ている。
「ず、ずるいぞ……照麻!」
「そ、そうよ……私達と一緒にテスト終わりの地獄(補習)に来なさい!」
「私達、追試仲間でしょ!」
聞こえてくる声はどれも弱々しい。
それもそうだろ。由香の実力は演習を通して二年一組の生徒はその実力を身をもって経験しているのだ。下級生だからと言って喧嘩を売ればどちらが大怪我をするかは一目瞭然。この勝負貰った、と思った時だった。
「あんたね、さっき私のパンツ見たでしょ! まずはそれを謝れ、この変態!」
声が聞こえてきた。
水玉パンツを履いている風紀委員の声だ。
直後、由香の表情から笑みが消え、二本の角が生えた。
最強の味方がたった一言で最強の敵となってしまった。
「お兄様? これはどうゆう事か今この場で全部お話しして頂けませんか?」
ゴクリ。
クラスメイト程度なら頑張れば逃げれるが、由香からは絶対無理だ。
照麻はその場で正座をさせられて由香に事情を全部話した。
怒った由香が怖く、クラスメイトは皆光の速さで何処かに行ってしまった。
その後故意ではない事が認められて、何とか命は助かったものの近くでその光景を見ていた一年五組の生徒であり由香のクラスメイトの後藤小夜子にはドン引きされる結果となった。
最後に「なら私が家事などをしてお兄様のお勉強のお手伝いを微力ながらしますね」と言われたので照麻は了承した。照麻は後で両親に怒られるとも思いながら由香と両親を天秤にかけたがやっぱり由香の方が怒ると怖いので即答した。
すると由香の頭から角が消えて、天使の微笑みを見せてくれた。
何が言いたいかと言うと、最後は由香の願望が叶ったのだ。
――赤井照麻と一緒にいたいと言う願望が。
由香は由香で両親からべったりし過ぎだから照麻が大丈夫になったなら一度帰ってこいと言われていたのだが、学園生の本業とも言えるテスト勉強並びに照麻のテスト勉強のお手伝いをするのであれば話しは別だと気づいたのだ。今週はずっと我慢しないといけないと半ば諦めて落ち込んでいたが大義名分を得た由香は怒りを忘れる程に内心大喜びとなった。




