私のヒーロー
「あーあ、私どうなっても知らないから」
リビングに行き、残った料理を食べる事にした照麻。
割りばしを二つに割り、料理に手を伸ばしたタイミングで愛莉が言った。
「珍しいな。お前から話しかけてくるなんて」
「まぁね。それで?」
愛莉は一度照麻から視線を外して、連絡先の交換をする優莉と由香、そして未だに一人ブツブツと言っている香莉を見る。
「それでって?」
「優莉と香莉、後は由香の事よ」
「まぁいいんじゃねぇの。皆仲良く、それが一番だからな」
照麻は香莉が作ってくれた最後の一つとなった唐揚げを口に含みながら答えた。
うん、美味しい。流石は香莉だ。
次に由香が作ってくれたフランクフルト。
少し冷めているが、それでも十分に美味しい。由香、お見事。
「仲良しねぇ……」
愛莉にはこれから特に由香と香莉がどうなるのやらと心配しかないわけだが。
そんな事はお構いなしと目の前の男はむしゃむしゃと料理を口の中に入れていく。
「ところでさ……」
「どうした?」
「あのね……」
愛莉は持っていた箸をおいて少し言いよどんで。
「ゴメン。私が優柔不断なばかりに……アンタに――」
「何言ってんだ。最後香莉を助けたのは優莉と愛莉だろ。後それを裏で助けてくれた由香。残念ながら俺はお前達に心配しかかける事が出来なかった。だから謝るな。お前はいつも通りにしていればいい。今も昔もそしてこれからもな。それに最後のお前最高にカッコイイお姉ちゃんしてたぜ!」
目の前の男は最後の結果だけが全てみたいな言い方をした。
その結果、本人は黙っているが、集中治療室で七日間眠り生死の境をずっと行き来した。
それだけの怪我をしておきながら、目の前の男は何も求めない。
それどころか何も言って来ない。
本当に見返りを求めずに戦ってくれた……とでも言うのだろうか。
だとしたら……この男はどうしようもない大馬鹿者。
それも超がつく程の。
だけど、だからこそ私が求めていたヒーローなのかもしれない。
ちょっとだけ、ううん、かなり見直した。
本当は今までしてきた行い全てに対して謝って頭を下げたい。
だけど多分。目の前の男はそれを望んでいないのだろう。
「なんて言うかさ、お前にだって色々と事情はあるんだろ? だったら俺の事は嫌ってくれてもいいから、由香とは仲良くしてくれないか? 悪い、それだけは我儘を言わせてくれ」
目の前の男は少しだけ悲しそうな声で言った。
そしてまた料理を手に取り、食べ始めた。
「わかった。なら私から二つだけいい?」
我儘? 妹と仲良くしてくれ。
それは我儘と言わない。あれだけ頑張っておいてそれだけしか要求してこないとか本当にバカ。もっと私に何かを求めても罰は当たらないのに。
「一つ。私達が困ったらまた助けて欲しいの。その代わりアンタが困ったら……まぁ気が向いたら私が助けてあげるわ」
「それで、二つ目は?」
「私の名前は愛莉。だからお前じゃなくて愛莉って呼んで」
すると男は動かしていた手を止めた。
そして笑顔で答えた。
「ヤダ」
「はっ?」
長女の優莉、三女の香莉は名前。
なのに次女の愛莉だけはお前。何か嫌だなと思っていただけに腹がたった。
やっぱりコイツ……ムカつくし大嫌い!
だけど。
「だって俺とお前ってこの距離感が一番合ってるだろ? お互いに言いたい事を気軽に言い合えるこの関係がさ。違うか?」
そう言われた時、愛莉は心の中で納得した。
実は私の事見てないようで、しっかり見てくれていたんだなって。
そしてコイツにならもう少し素の自分を見せても受けれいてくれそうだなって思った。
「違わない」
だから愛莉は素直になって、赤井照麻に初めて笑顔を見せてやった。
それも最高の笑顔を。
「そうゆうこと」
――ありがとう、私のヒーロー
愛莉は心の中でお礼を言った。




