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居留守を使う権利


 四月七日。


 本来であれば気にもしない朝の占い。しかし昨日の事があり、もしやと思い確認したのが運の尽きだった。テレビのスピーカーから聞こえてくる、今日の貴方は何か凄い事に遭遇してしまいそう、だけどあまり深くは関わらない方がいいかも、なんて言われる物だからつい身体がビクッしてしまった。


「おい……これ、フラグとかじゃないよな……」


 学園に行く準備を終わらせて、一人で使うには広いリビングで照麻は朝の眠気覚ましとして珈琲をすすりながら呟いた。

 照麻は諸事情により両親と妹とは離れて別居している。簡単に言うと両親がその方が良いと判断してだ。照麻と由香の仲を見た両親は二人が将来正しく真っ当な道を歩けるようにと照麻に配慮してくれた。流石に照麻を含み両親としても由香がこのままお兄ちゃん一途でloveと言うわけにはいかない。


「それにしても昨日のせいか身体もあちこち痛いし今日は学園休んでもまぁ問題ないか」


 朝の占いを見てしまった為に、本来であればそんな曖昧な理由で学園を休む事はしないのだが今日は特別と自分を正当化していると、照麻のスマートフォンがメッセージを受信する。『愛するお兄様へ。おはようございます。昨日は大変だったでしょうが、今日もちゃんと学園に来てくださいね。でないと私我儘になっちゃいますからね』と愛のメッセージ(キョウハク)に似た文字が視界に入ってきた。


 ――ゴクリ


 流石は出来の良い妹だ。

 よく兄の事を理解している。がここまで思考が読まれていると最早笑えない。と言うか逆に少し怖い。


「わかってるよ、学園休んだ方が面倒な事になる事ぐらい……でもさぁ~冗談でも何かを言いたい時ってあるんだよ……ホントさ……」


 小学校のときからずっと同じ学園なだけに出来の良い妹といつも比べられた為に、周りからは出来の悪い兄と馬鹿にされ、両親からは照麻もやればできる子だから! とプレッシャーを掛けられる。止めの一撃に由香からは私よりお兄様の方が凄いです! と息が苦しくなるような期待の眼差しをいつも向けられる。かと思えば妹フラグが多く学園でもプライベートでも気の休まる瞬間はあまりない。別に妹は正直可愛いし大好きだ。そもそも大好きと言っても異性としてではない。なので禁断の兄妹の道に落ちようとは一切思わない。それが照麻の日常である。


「……仕方ない。今日は占いが外れると信じて、そろそろ行くとするか」


 後頭部の髪を手でぐしゃぐしゃとしながら照麻は呟く。正直玄関を出たら学園に行くしかない。だが休めば間違いなく病気と勘違いした妹――由香が放課後急いで家に来る。すると両親に連絡がいき、無駄な心配をかける事になる。つまり今の赤井照麻には学園を休むと言う選択肢がないのだ。


「まぁ心配して実は玄関を開けたら由香がいる……は流石にないか」


 と鼻で笑いながら、ないないと心の中で否定をしてリモコンを使いテレビを消し立ち上がる。

 すると玄関の方から聞き覚えのある音が聞こえてくる。


 ――ピンポーン!


 あれ? 今日何か朝一から配達される物あったか?

 照麻は頭の中で考えるが、心当たりがない。


 ではなにか。朝一誰かが来る予定等あったか?

 もう一度照麻は頭の中で考えるが、やはり心当たりはない。


 そうなると宗教勧誘か募金活動の人間か?

 この状況に合う人物を考えてみる。


 ――ピンポーン!!


 するともう一度玄関からチャイムの音が聞こえてきた。

 正直今は相手にしたくない。

 なぜなら。


「~はぁ。あの人達って本題よりそこに行くまでの無駄話が長いんだよな、仕方ない居留守を使うか」


 照麻は自分に言い聞かせるようにして呟いた。

 壁に掛かった時計に目を向ければ朝の七時五十分とまだ時間には余裕がある。

 まだ慌てる時間ではない。学園までは歩いて行けば二十分程度で到着できる。なのでしばらくして玄関の先にある人の気配がなくなるまでリビングでのんびりしておくことにした。

 まだ残った珈琲を飲みながら。


 ――ピンポーン!!!


「しつこいな」


 だがここでイライラして玄関を開けては相手の思う壺だと思いここはグッと内に湧き上がったイライラを抑えつける。チェーンは朝起きて外しているが、鍵はしっかりとかけてある。つまりこちらから玄関の鍵を開けることをしなければ外にいる人物は諦めるしかないのだ。


「まぁ、居留守をする権利は誰にでもあるからな」


 イライラを少しでも軽減する為に勝者の言葉を吐き捨てる照麻。

 だが嫌な予感がする。

 なぜだろう?

 照麻は少し疑問に思った。


 ――ガチャ


 その音に嫌な予感どころか背筋が一瞬で凍り付いた。

 この家の合鍵を持っているのは両親と由香だけである。両親が朝から仕事なのは間違いない。つまりこの時間、このタイミングでこの家の鍵を持っている人物は最早一人しかいないからだ。


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