平和な日常と病人
病院で爆睡を決め込んだ。
それも一日や二日じゃない。
十日間しっかりと布団の世界を堪能した。
それから「良し、俺ザオリク!」と病室で叫んでみたものの、完全復活どころの話しではなかった。漫画や映画のように主人公が実は何事もなく、日常生活に戻れるようなことはなく、打撲傷、捻挫、刺過傷、……と人体に大ダメージを残したまま目覚めてしまったのだ。そして病院の栄養重視の病院食があまりにもマズイので公衆電話から両親に連絡し頭を下げた。
それからすぐに両親が病院に来て、色々とあった。
そのおかげで赤井照麻は久しぶりの我が家で窓を開けてベランダにいた。
魔術都市の夕焼けが一人佇む、照麻の全身を赤く照らす。
やっぱり平和っていいなーと先日の一件を思い出す。
本当に良かった。
三人の日常が戻って来て本当に――。
良かった……と思う。
「ちょっとそれは私が照麻さんの為に作った唐揚げです! 勝手に食べないでください!」
「別に一つぐらいいいじゃないですか! ケチケチする女は嫌われますよ!」
リビングから聞こえてくるにぎやかな声。
これが現実。
「そんな事言っていると太りますよ?」
「ふ、太ってなんかいません……」
「ならそのいやらしい胸は何から出来ているんですか?」
「そ、それは……うぅ~。それを言うなら香莉さんもだと思いますが!」
「なっ⁉ いきなりなんてことを言い出すのですか!」
「こらこら、二人共止めなさい」
「アンタたちって本当は似た者同士だったんだ……」
二人が喧嘩に発展する前に優莉が仲裁に入ってくれる。
そんな優莉の横では香莉が作った唐揚げをさり気なく箸で一つ掴みしそれをモグモグと食べる愛莉。
今日は照麻の退院祝いと言う事で、香莉達が家に来て料理を作ってお祝いしてくれる事となった。
それを知った由香は大慌てで照麻の家に来たのだ。
ちなみに照麻の意見「今日は一人でゆっくりしたい」は誰も聞いてくれなかった。
何より一番の驚きは愛莉がいる事だ。
照麻はあれ、俺嫌われてなかったっけ? と疑問に思ったが、触らぬ愛莉様に祟りなしとして自己解決した。
さらに一番の問題は妹と三姉妹がこうして接点を持ったことだ。
案の定、照麻の嫌な予感が当たった。
由香VS香莉の料理対決が何故か始まり、それを見て優莉と愛莉が「今日は食べ放題!」と涎を垂らし、目をキラキラさせ、女の世界が作られた。そこに照麻の居場所はなく、女四人が我が欲求を満たさんと必死に何か(宴会の準備)をコツコツと頑張り始める。
冷蔵庫に入れていた飲料水が全てなくなり、買い出しが面倒だと言う理由から家に蓄えていた予備の飲料水もなくなった。最後は当然のように冷蔵庫にある食料全てがさっき底を尽きた。
「って愛莉! なんで愛莉も食べているんですか?」
「え? ダメなの?」
愛莉がわざとらしく口の中にいれた唐揚げを食べながら驚く。
「ダメです!」
「それにしても由香ちゃんも料理上手なんだね」
「そうですか? ありがとうございます」
気付けば優莉と由香が仲良くなっていた。
流石は優莉と言った所だった。優莉の一歩引いたコミュニケーションは由香をしっかり立ててくれるので由香としても気が合うのか、照麻が知らない所で仲良くなっていた。そして愛理もである。赤井照麻は嫌いだが、赤井由香は好き? なのかお互いに一発触発等と言う事はなかった。由香曰く「最初は嫌いだったが話しを聞いているうちに過去に色々とあり女性としても苦労されていたとわかったので今は嫌悪感等は一切ありません」とのことだった。ちなみに何を話したのかを聞くと「愛莉さんから二人だけの秘密」と言われているらしく何も教えてくれなかった。とりあえずわかったのは優莉と愛莉はなんだかんだ言って俺が眠っている間にお見舞いに来てくれていた。そこで由香と会い、仲良くなったと言うことだ。
そして一番意外だったのが、由香と香莉である。
二人共普段から大人しい性格なので一番息が合うと思っていたのだが見ての通り一番反発し合っているのだ。
「やっぱり女心はわからん。なんであの二人だけがぶつかり合うんだ?」
照麻は夕焼けの景色を見ながら、一人呟いた。
「あ~もう、わかりました。皆さん好きなだけ食べてください」
香莉が何かを諦めて、唐揚げを死守する事を諦める。
それを機に、由香、優莉、愛莉が待ってましたと言わんばかりに箸を使い、唐揚げを手に取り口の中に放り込んでいく。
程よく揚げられたもも肉がじゅ~わ~と口の中で肉汁を出しながら三人の舌を満たしていく。照麻もさっき香莉の料理を食べたが、料理の腕は由香と殆ど変わらなかった。
すると香莉がこっちに来て、隣に来た。




