それぞれの覚悟と思い
「はい」
すると学園長が鼻で笑う。
「面白い。学園長権限で今からお前に命令する。藤原香莉を連れ去ったテロリストグループを速やかに排除してこい。警察、ご両親、後は藤原家には私が手を回してやる。出来るな?」
「学園長!」
これには生徒指導の先生も驚いている様子だ。
「はい!」
「良し。ならそこにある生徒手帳を拾って行け。魔術の制限はなし、交戦によって生じた被害については私が全責任を持ってやる。文句は?」
「ありません!」
「ルールを守らない魔術師を世間は認めない。力ある者が無秩序に暴れられも困るからな。だが今のお前は違う。ちゃんとした理由がある。私はお前のように自分の為じゃなくて大切な友人の為に命を懸ける奴が好きだ。私達の世界はそれだけ厳しく一人では生きていけない世界だからな」
視線を移して。
「山内これは学園長、そして魔術学園の統括者としての命令だ。今から魔術学園の生徒である赤井照麻を現場まで運び、速やかにこの事件を解決する為の援助をしろ」
「はっ!」
山内は反論する事を諦めて、すぐに車両手配の為に職員室を出て行く。
「自分の妹には演習ですら手を上げる事を躊躇う優柔不断な奴と先日見て思ったが、演習だけで全てを見抜けないとは私もまだまだだねぇ~。まぁ後は上手い事やっておくれ、期待している『炎帝』の魔術師」
学園長はそう言い残して職員室にある空いている席に腰を下ろした。
周りの先生達や掃除を委託している関連の従業員達が全員動かした手を止めて学園長だけを見ていた。
照麻はニコッと微笑む。
すると学園長と目が合い、同じようにしてニコッと微笑んでくれた。
照麻はこの時、ただ偉そうにしているだけのオバさんではないんだなと学園長へのイメージを修正した。
「学園長私からも一つお願いをよろしいですか?」
「話してみな」
「私をお兄様に同行させては頂けませんか?」
「理由は?」
「私はお兄様の味方です。警察ですら手を焼く集団に一人では分が悪いのは百も承知のはずです。私もお兄様と戦います」
「私もお願いします。長女として……いえ、私達の問題に照麻だけを行かせるのは危険です。私も大切な妹を救う為、何より大切な家族を助ける為にお願いします!」
由香の隣に来て優莉が頭を下げる。
学園長は困ったように小さくため息をついた。
そして由香と優莉をもう一度見てから最後に愛理を見た。
「お前はどうしたい?」
「…………」
愛莉は視線を泳がせた。
「私は……」
戸惑う愛莉の元へ照麻が行く。
「任せろ。俺が絶対に連れて帰ると約束する」
「……アンタ」
「恐かったら愛莉はここで待ってていいぞ。俺には切り札がちゃんとある。だから――」
「――そうゆうところだよ。お前の魔術はまだ未完成。だと考えると切り札とやらは『炎帝』の暴走か? だとしたら最悪死ぬかもしれないし、魔術回路が焼き切れるかもしれない。なんでハッキリと命を懸けると言わないんだい? それがお前の優しさだと言うならそれは間違っている。それはただの自己満足による偽善。この男は根が優しいバカだ。だから何を言ってもこの男が怒ることはここではないだろう。だから私に言いにくいならこの男にぐらい自分の今の気持ちを素直に言ったらどうだい?」
「……それは本当なの?」
照麻は学園長の余計な一言に心の中で舌打ちした。
別にそれで死ぬつもりはない。だったら余計な心配を掛けない為にも今は黙っておくべきだろう。自己満足だとかそんな小さい事を気にして愛莉に黙っているわけではない。照麻は照麻で愛莉に気を遣っていただけである。
「あぁ」
「なんでアンタはあの時と言い、今といい私に優しくするの? 私はアンタに散々酷い事を言った。なのにどうして?」
「別に理由なんてない。ただその方がいいと思ったからだ」
「誰だって初陣は怖いさ。魔術師と呼ばれるようになる学園生からは見習いとは言え警察の要請に応じて現場へと出ることが稀にある。そこの男は去年三回出た。経験と言う意味ではそこの男の方が実践慣れをしている魔術師だと言える。お前の役割はなんだ? 答えてみな、それがあんたの答えだと私は思うよ」
「私の役目は……上級魔術師候補者として活躍する事です」
「なるほど、いい答えじゃないか。いいだろう、そこの女三人は『炎帝』の魔術師の援護に入りな。目標は藤原香莉の安全の確保が最優先。以上だ。わかったら早く行きな、見習い魔術師共!」
学園長に四人が一度頭を下げて、職員室を出て行く。
学園生はこうして警察と協力して犯罪組織と戦う事が稀にある。
基本的に未成年と言う事からあまり事件に呼ばれることはない。
だから学園生の多くは現場を知らずに卒業してから現場なんて言う事はよくある話し。
だけど照麻の場合はその性格のせいか、困っている人を見る度に助けようとして気付けばいつも事件に巻き込まれている事が毎年数回あるのだ。
「この学園に来て初めてこの私に真っ直ぐに意見をぶつけてきた生徒。今年は何をみせてくれるのかねぇ~ホント楽しみだよ『炎帝』の魔術師」
学園長は去年の事を思い出しながらそう呟いた。
その顔は何処か嬉しそうだった。
その頃、照麻達は山内先生が手配してくれた車に乗り込み学園を出ていた。




