香莉との約束
「ふふっ、こうして二人で夜道を歩くの私達が初めて会った日以来ですね」
夜の街灯が照らす夜道。
人の気配がなくちょっと寂しい風が二人の距離を近くする。
「まだ肌寒いので人肌が恋しい、そんな気持ちになります。なのでもう少しだけ」
香莉が照麻に近づいてくる。
照麻が手を伸ばせば抱きしめられる程の距離感に心臓の鼓動が高まり、さっきまで肌寒かったはずなのに急に熱くなってきた。
「やっぱり照麻さんの近くは落ち着きます」
暗く顔がハッキリとは見えないが香莉が照れくさそうにしてボソッと呟いた。
「そっか」
「はい。私にとって照麻さんは命の恩人であり、私がピンチの時に助けに来てくれるヒーローです。だからこれからも私が困っていた時は手を差し伸べてくれると嬉しく思います」
「ヒーローか、そんな事ないと思うけどな。まぁそうなれるように気が向いたら頑張ってやるよ」
助けた側にはそんな思いはなくても助けられた側にはそんな風に見えるのかと思った照麻。だから否定も肯定もせず適当に誤魔化す事にした。
「うふふ。なら期待せずに待っています。それで本当はさっき聞こうと思ったのですが、聞きそびれた事今のうちに聞いてもいいですか?」
「うん」
「あの日、妹さんは私の前で『浮気はよくない』と言われておりましたが、お二人はお付き合いされている……のですか?」
「んなわけないだろ。あれは由香の冗談だよ」
香莉は照麻に見えないようにして軽く下を向いて胸に手を当てる。
そのままホッと息を吐き出す。
「そうでしたか。それならこれからも私の家に来て問題ありませんね」
「いや、そんな笑顔で言われても愛莉がな……」
「大丈夫ですよ。愛莉は基本的に男の人にはかなり冷たいのですが、照麻さんにはあれでも優しい方ですから」
「そうなの⁉」
照麻は驚きのあまり、その場で立ち止まってしまう。
愛莉が優しい?
その言葉に頭が情報の交通事故を起こし、軽いパニック状態になってしまった。
そんな照麻を見て香莉も足を止めて、振り返る。
「はい。愛莉は昔から本当に嫌いな人には話しかけませんので。ただ一番の原因は過去に――……やっぱりなんでもありません。これは本人から聞くといいでしょうし、私はいずれ照麻さんと愛莉が今以上に仲良くなってくれる事を願っています。ちなみに私達との学園生活は照麻さんにとって嫌ですか?」
歩み寄って上目遣いの香莉。
夜でありながら香莉の可愛い顔がハッキリと見えた。街灯の光に照らされたその顔はよく見ないとわからない程度ではあったが赤くなっていた。
急に歩み寄られたことで、照麻の顔も同じように赤くなった。
「……いやじゃない、です」
「なら今ここで私と照麻さんで約束しましょう」
「約束?」
「はい。とりあえず学園を卒業するまでは照麻さんは私達三姉妹と仲良くする。いいですか、絶対に約束ですよ?」
香莉は念を押すようにして照麻に言い寄ってくる。
「何がとは言わないが……あたっている、あたっているから、落ち着け」
「なら約束してくれますか?」
「する、します……約束します」
香莉が満足したのか離れる。
「言いましたね、うふふ。後こうゆう時は気付いていないふりをして、紳士を演じた方が色々と照麻さんにとってはお得ですよ。では私はこれで失礼いたします。また明日学園でお会いましょう」
香莉は身体の向きを変えて、手を小さく振りながら来た道を戻っていった。