二人の夜道
四人でご飯を食べ終わった頃、テレビから聞こえてくる無機質な言葉。
『先日入院していた犯罪者が逃亡しました。警察は全力で追跡しているようですが、未だ手掛かりはないと言う事です。周辺付近にお住いの住民の皆様はお気を付けてください』
そして犯人の顔が映し出される。
そこに映っていた顔ぶれは照麻が香莉を助けた時に会った男達だった。
「世の中物騒ですね」
リビングでくつろいでいる照麻達の所に香莉が来る。
「だね。特に香莉は気を付けてね」
「しばらくはそうしますね、優莉」
「お姉ちゃん心配だからしばらくは夜に外出する時は私か愛莉に一声声掛けてね?」
「そんな大丈夫ですよ。きっと何かあったら照麻さんがまた偶然通りかかって助けてくれますから」
本気で心配する優莉。
だけど優莉に心配をかけたくないのか、冗談半分で受け答えをする香莉。
正直どちらの気持ちもわかる照麻にとってはどちらかだけの味方をすると言う選択肢はなかった。今はこの場にいない愛莉だったら多分優莉の意見に賛成するのだろうなと思いながらも照麻はただ一言だけ答えた。
「そうだな」
相変わらず愛莉には嫌われているらしく食事中は話しかけてはくれなかったし、食事が終わるとすぐに一人自分の部屋に向かって歩いていった。それからドアノブに手を掛けて「用が済んだなら早く帰れ!」と言って姿を消した。
その後、照麻は優莉から聞いた。
愛莉もまた昨日の結果に悔しがっていると。本当は皆と悔しさを共有したいがどうしていいかわからないのだと。だからこそ何も言い返して来ない照麻にはより強く当たってしまうのだと。何よりあぁなるのにはちゃんとした理由が他にあるのだと。
「げぇ、まだいるし……最悪」
部屋から出てきた愛莉は露骨に嫌そうな顔をして冷蔵庫にある飲料水を手に取って飲む。
「こら。少しは仲良くしなさい。でないとまた香莉に怒られるよ」
お姉ちゃんらしく良い事をいう優莉。
流石は長女。
「…………」
「そうやって、ふてくされないの」
「…………」
「愛莉?」
「…………」
照麻は不貞腐れ不機嫌さを隠すのではなく、そのまま表に出してくる愛莉を見て無言でその場を立ち上がった。
このまま照麻がここにいたら三人の仲に亀裂が入ってしまうかもしれない、そう思い「なら俺帰るよ。ご飯ありがとう」三人にそれだけを伝えて玄関を出て行った。
藤原家を出てタワーマンションのエントランスを抜ける。
きっと愛莉にとっては姉妹である優莉と香莉が全てなのかもしれない。そこに他人が入る余地はなく、ましてや三姉妹の時間に誰かが少しでも干渉をするのを嫌っているのかもしれない。それだけ愛莉にとっては大切な存在だと言う事だろう。
「待ってください」
夜道を歩き始めようと一歩足を動かしたタイミングだった。
「どうした?」
香莉が慌てて追いかけてきた。
「その……さっきはごめんなさい」
香莉は何を言うわけでもなく、いきなり頭を下げて謝罪した。
そして。
「もし良かったら少し私と二人きりでお散歩とかどうですか?」
と提案をする。
「別にいいけど」
照麻は香莉の提案を受け入れた。




