結果に納得がいかない者
その後怪我を負った照麻は保健室に行き、手当てを受けた。
結果は照麻達の負け。
あの後、愛莉は香莉の魔術で補助をしてもらいながら由香に立ち向かった。
それでも勝てなかった。
翌日の放課後、照麻は学園の屋上に来ていた。
落下防止用の柵に背中を預けながら、自由に動く雲を見ている。
新鮮な空気を全身に浴びて、乱れた心を一人落ち着かせて。
昨日は由香が気を遣ってくれ、一人にしてくれた。
だけどモヤモヤした気持ちが静まる事はなかった。
照麻は悔しかった。
なにがって、それは勝負に負けた事も当然あるが、問題はそこじゃない。
皆の悔しがる顔を見たことだ。
もっと自分が『炎帝』を上手く扱える用になっていれば、皆の笑顔を護れたのではないかと言う後悔である。もっと言えば愛莉の笑顔である。『アイツは俺とは違い怖くてもしっかりと皆の為に頑張ってくれた。だけど俺は由香を傷つけたくないと言う迷いと勝負には勝ちたいと言う迷いを混合させ更には由香の力に内心ビビッていた』照麻は当時の気持ちを振り返った。
今さら何を思い何を言っても結果は変わらない。
それでもあの時の迷いが結果的に愛莉に無茶をさせることとなったと思うとやっぱり悔しかった。
ガチャ
屋上と校舎を繋ぐ扉が開く。
照麻はそのことに気付いていながら無視した。
別に今は誰かと話したい、誰かと会いたいとも思っていないからだ。
ただ知り合いじゃないといいな、ぐらいで考えていると声が聞こえてきた。
「なに一人で抱え込んでいるんですか?」
照麻は聞こえてきた声に視線を向ける。
「もしかして落ち込んでる? ったくバカだね~。勝つときもあれば負ける時もある当然でしょ」
そこには香莉と優莉がいた。
「どうしてここに?」
「そんなの決まっています。今日ずっと照麻さんを見ていましたがどこか元気がなかったので心配になって探していたからです」
「そうそう。香莉めっちゃ心配していたんだよ。それはもう私を巻き込んで元気づけるまで帰らないと豪語する程にね!」
その言葉に香莉の顔がポッと赤い色に染まる。
「ち、ちょっと……それは言わない約束では?」
「あれ~ごめん、ゴメン。お姉ちゃん口が滑っちゃったよ~」
とぼける由香を見て、香莉が頬っぺたを膨らませて抗議する。
その様子がいつもの日常って感じがして、モヤモヤしていた照麻の心を優しく包み込んでくれるようだった。
「あはは~」
照麻は笑った。
昨日あんだけ落ち込んでいた二人がこうしていつも通りに過ごしていて。
「そうだよな。そうだよ……うん」
照麻は納得した。
別に勝敗が全てではないのだと。
終わった事をグチグチ言っても仕方がない。だったら香莉や優莉のように前を向いて今回の経験を次に活かせばいいだけじゃないかとそう思った。
「照麻さん元気出ましたか?」
「おう! ありがとうな、二人共!」
「それは良かったです」
香莉が照麻に笑みを向けてくれた。
「ちなみに由香ちゃんは?」
「今日は実家。本当は今日俺の所に泊まる予定だったみたいなんだけど、両親から帰ってこいって言われて「ちょっと文句を言ってきます!」って言ってさっき帰った」
「おぉ~何とも言えない所で怒ってるね……」
優莉の表情から笑みが消えて、困惑の表情になった。
香莉もこれには流石に驚いているのか、口元を手で隠している。
「あはは……」
照麻は苦笑いをする。
「だったらこの後お一人ですか?」
「うん」
「なら決まりですね。私が今日ご馳走しますので一緒に食べましょう。落ち込んだ時は皆でご飯を食べて楽しい時間を過ごして元気になるのが一番ですから!」
そう言って香莉は照麻に何も言わせないまま、左手首を掴み歩き出した。
「悪いけど今日は付き合ってあげて。香莉本当に心配してたから」
小走りで隣に来た優莉が照麻だけに聞こえるように小声でそう呟いた。そして優莉からも右手を掴まれ、周りから見たら悪いことをした人にしか見えないような格好で一緒に学園を出る。
校門の手前で愛莉がいたので四人は合流して帰った。




