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新一年生と新二年生の対決【開戦】


「では今から予定通り一年生合同チームVS二年生合同チームの演習訓練を行う。なおルールは簡単。敵チームの大将を倒すか、敵チームの大将が敗北を認めた時点で決着とする。演習訓練の時間は一時間。それまでに決着が付かなかった場合は引き分け。今回は学園長が皆の活躍を期待してわざわざ足を運んでくださった。各自全力で戦いアピールに励め! では演習開始!」


 マイクを通して校庭に響き渡った先生の声。

 これを合図として両チームが一斉に動き出した。



 照麻は合図と同時に自分の持ち物を再度確認する。

 学園の制服の内ポケットにいつも隠している魔力石の数。そして体内の魔力残量とすぐに魔術を扱えるように精神統一をする。照麻は身に着けていないが生徒によってはインカムを付けて違う部隊と連携を取れるようにしている生徒もいる。その一人が愛莉である。


 演習開始の合図と同時に飛んできた氷柱に前衛部隊の一割が早くも負傷し無力化された。

 照麻はすぐにそれが由香の魔術だと理解した。

 二年生の前衛には中級魔術師もいる。その中級魔術師ですら完璧に凌げない程の速さで弾丸のように連続で打ちだれた氷柱。そんな魔術を一瞬で構築して放てる人間等限られている。ましてやそれが新一年生ともなれば尚更だ。


 照麻はすぐ近くにいる香莉と優莉をチラッと見た。


 二人共前の学園でも演習をしていたらしいが、流石にこれには驚いていた。

 それもそうだろ。実践慣れしていない一年生に一瞬にして二年生がやられたのだ。

 油断なんてして勝てる相手ではない。


 ないとは信じたいがもしこのまま前線部隊が崩壊したらセンターポジションの人間が危ない。そうなると後衛部隊である後衛ポジションの人間が前に出ないといけなくなる。


「そんな……何なのあの氷柱は」


 優莉は驚きながら口を動かす。


「あれは多分間違いなく由香だ。由香の魔術が俺達を攻撃している」


「それでアンタなら対抗できるの?」


 いつの間にか愛莉が照麻たちの所に戻ってきていた。


「無理に決まっているだろ。俺は下級魔術師で由香は魔術都市に十人しかいない上級魔術師だぞ? そもそも格が違う」


「チッ――マズいわね」


 愛莉はチラッと学園長がいる方向に視線を飛ばした。

 新二年生が無様に新一年生にいいようにされて負けたとあっては先輩としての威厳がなくなるからだ。それにここにいる全員の将来――内申点にも関わってくる。大将の判断一つがここにいる全員の未来を担っているからこそなのか愛莉が腕を組んで真剣な表情で何かを考え始める。


「照麻さんあのままでは前衛の皆さんが危ないですよね」


「多分すぐに止むと思う。由香の魔力も無限じゃない。あれは俺達を牽制するための先制攻撃そして先輩相手に緊張して委縮した仲間を勇気づけるための攻撃……だと思う」


 照麻は頭を動かして冷静に状況を分析する。


(コイツこの状況で冷静に周りが見えていると言うのかしら……)

 愛莉は照麻を見て思った。

 いきなり不利になったのにも関わらず随分と落ち着いているなと。


「全員、態勢を立て直す事を最優先! それから敵の遠距離攻撃はすぐに迎撃しなさい! 後衛も自信がある者や戦いたい者は今すぐ前衛もしくはセンターに上がって構わないわ!」


 愛莉の声が校庭に響き渡る。

 そして後衛にいた多くの人間が前衛ポジションもしくはセンターポジションに行く。どうやら内心戦いたいとうずうずしていた者が多かったらしい。


「前衛は一回止まりなさい。それで援軍が来るまでその場で待機。来たら足並み合わせて攻撃に移りなさい!」


 愛莉の判断に全員が一斉に動き始める。

 各ポジションの中核となる何人かにはインカムが支給されており、声が届かない場所にも愛莉のインカムを通して伝わるようになっている。


「アンタにもやっぱり一応渡しておく」


 照麻は愛莉からインカムを受け取り耳に付ける。

 

 照麻達の視界の先では激しい光が花火のように光っては消えてを繰り返す。

 光に遅れて聞こえてくる爆発音と風。

 これだけでもおふざけ気分で授業に参加すれば大怪我、最悪死ぬことだってある事がわかる。だけどそれは入学時にしっかりと説明される。卒業兼生存率九九パーセントこれが魔術都市の正体でもある。各学年卒業までの三年間に毎年一人辺りの死者が出ている。これは自分の力を過信した者の末路でもある。


「ちなみに照麻さんが本気で由香さんと戦ったらどれくらい時間を稼げるのですか?」


 香莉の不安が混じった声。


「多分五分持たないぐらいだろうな」


 照麻はこの演習で『炎帝』を本気で使うつもりはない。使ってもfase三までに抑えた力の開放だ。それ以降だと扱いが難しく先日の一件程度では済まなくなる可能性があるからだ。fase三でも下級魔術師それも防御耐性が弱い魔術師ならこんがりと全身を焼く事が出来る。あんな見かけだけの翼竜でもだ。あんなの消防車の水圧を最大にして三か所辺りから散水されたら数分で沈下してしまう。


「それでも五分は戦えるのですね」


 安心したように優莉がほほ笑んだ。


「まぁ小さい頃はよく喧嘩もしていたからな……魔術で。そのたびに母さんに二人で仲良く鉄拳制裁されて正座させられてたよ。家を壊す気かってね」


「ウフフっ。照麻さんと由香さんは昔好戦的だったんですね」


「……まぁな」


「それにしても今年の一年生は中々強そうだな」


 照麻は目の前の光景とインカムを通して愛莉にくる報告の声を聞いて呟いた。

 中級魔術師の人数にそこまで差がないことを考えるとやはり最後は大将の統率力や大将と大将の一騎打ちとなるのかもしれないなと照麻は思った。


 負傷者が後退して二年生の後衛ポジションよりもっと後ろにある救護テントへと歩いて行く。その数は徐々に増えて行く。


「優莉悪いけどお願い出来る?」


「わかった。なら香莉私の補助お願い」


「わかりました。お気を付けください」


 愛莉、優莉、香莉がそれぞれお互いの顔を見合わせて頷き合う。

 照麻は一体何をするのかと三人を見ていると香莉の目が青く輝き始めた。

 更にそれに呼応するようにして優莉の瞳が青く輝き始める。


「良し、リンクは正常」


「これは……」


 驚く照麻。


「これですか? これは私の視覚と香莉の視覚を繋げてお互いに共有している『視覚共有』と言う魔術です。私は優莉と愛莉のようにかなり親しい間柄かつお互いが信頼し心を許してていないとできませんがね」


 サラッと言って微笑む香莉。


「うん、良く見える。これで不意打ちは怖くないし、上空にも気を配らず見てられるから安心。って事で行ってくるね」


 優莉は照麻、香莉、愛莉にそう言い残して走っていた。


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