由香は愛莉から見ても天使顔
「まぁそのお話しは一旦おきまして、お二人のご関係を聞いても宜しいですか?」
「お友達でクラスメイトですが、それがどうかしましたか?」
「いえ、噂ではかなり仲良しだと聞いていたものですから」
「そんなのただの噂です。照麻さんと私との間にやましい事は何一つありません。事実昨日やっと先日のお礼にと夜ご飯をご馳走したぐらいしかプライベートの関りもありませんから」
爽やかな笑顔で答える香莉。
だがこの時照麻の身体がビクッと反応してしまった。
昨日由香の連絡に気付かず、帰りが遅くなった理由が女の子と夜ご飯を食べていたからだとバレたからだ。
「それは本当ですか?」
「はい。美味しいと言って褒めてくれましたよ。もし良かったら今度食べに来ますか?」
「まぁ、その……何て言いますか、お兄様がどうしても一緒に食べたいと言えば前向きに考えさせて頂きます」
ちょっと不機嫌そうに照麻を見て、由香が返事をする。
これは心の中できっと怒っているなと照麻は思った。
露骨に嫌そうな顔をしないだけまだ可愛いげがある。
「大丈夫ですよ、そんなに警戒して疑わなくても。照麻さんとは本当に昨日ご飯を食べてお話しをしただけです。そこには私の姉妹も同席していましたし、後は私と姉がつい照麻さんの目の前で喧嘩をしてしまいその仲直りの手助けをしてくれただけですから。ね? 照麻さん」
「う、うん」
照麻は香莉と愛莉があれから仲直り出来たのだと知り、少し安心した。
ずっと聞こうか聞くまいか迷っていたのだ。
下手に聞いてまだ仲直りが出来ておらず関係が悪化したとなったら大変だと思い、今度愛莉に会った時に確認しようと思っていた。
「わかりました、私の負けです。正直に言うと嫉妬しただけです。すみませんでした」
香莉の誠実さが伝わったのか由香がペコリと腰を九十度に曲げて謝る。
いつもなら「お兄様!」と言ってなんとか独り占めをしようと頑張る所ではあるが、照麻は由香は由香でちゃんと成長していることに喜びを覚えた。
「素直でとても可愛いですね。そこに照麻さんは愛しさを感じているのでしょう、ですよね、照麻さん?」
「おう!」
さり気なくフォローまでしてくれる香莉。
照麻はこの時、香莉って実は思っていた以上に気遣いができて優しい女の子ではないのかと思った。最初はただ真面目で堅物なだなと思っていたわけだが、どうやら違ったみたいだ。
「ありがとうございます」
香莉と由香の笑みが眩しい。
「まぁそれはそれとしてお兄様。私に黙ってこんな綺麗な女性の先輩とご飯を食べたって言う事実は変わりませんのでお気を付けくださいね。今日は私にとっては初めての演習ですのでお兄様と香莉先輩に胸を借りるつもりでいきますので」
満面の笑みで死の宣告をした可愛い妹――由香は二人に一礼をして一年生の集合場所へと戻っていった。
「へぇーあれが照麻の妹で由香ちゃんかー。それにしても随分と愛がある妹だね」
「昨日は助かったわ。その……ありがとう」
照麻が声のする方向に顔を向けると優莉と愛莉がいた。
愛莉は少し照れくさそうにしていた。
「あれ二人も今日演習?」
「うん。私が三組で愛莉が二組だよ」
「そっかぁ。なら今日は宜しくな!」
「うん! 一年生が相手だけどやりがいがありそうだね」
「力があるからこそ、正面から戦って排除する。正に今年の首席に相応しい妹さんですね」
香莉の由香に対する評価は的確だった。
正に由香は女王なのだ。今年の一年で主席、その実力、魔術知識は次席を大きく突き放していると校内では噂されている。
「でも大丈夫。こっちにだって愛莉がいるから!」
「いや無理よ? あんな可愛い顔した天使には私でも勝てない」
優莉の言葉に愛莉が即答する。
どうやら愛莉は由香と闘っても勝つ自信がないらしい。
確かにと照麻は心の中で思う。
正直由香が負ける姿は想像できない。だけど照麻の中で愛莉は未知数なのだ。どんな系統の魔術が得意なのかすら知らない。だからかも知れない。由香と愛莉の戦いは実現して欲しいと内心思いながらもやっぱり実現して欲しくないとも相対する意見が同時に生まれた。faseが高い魔術が使えるから最強とは限らない。そこには相性だってあるし、魔術使用者のその日のコンディションやメンタルだって影響してくる。だからこそ一概に由香が常に最強だとも思っていないのだ。